650 views

電話ボックス

※実話を元にしたフィクションです。

携帯電話が普及し、時代の流れと共に
その姿を目にすることが無くなっていった電話ボックス。
この電話ボックスに、設置に関する規約があることをご存知だろうか。

市街地においては約500m四方に一台。
それ以外の地域で世帯などが存在する地域は1km四方に一台、という基準がある。
つまり、我々がその存在から関心を無くし、目を向けなくなっただけであり、
電話ボックス自体は未だにどこかでひっそりと活動をしているのだ。

田舎などがそのいい例であり、
俺の住む田舎にも何台か電話ボックスがある。
仕事の帰りに国道を車で走っていると、
路肩に点在する長距離トラックの仮眠スペースがあるのだが、
このスペースの一角にたまに見かけるのだ。

夜になると、その佇まいは不気味そのものだ。
真横が国道なので、通る車が多い時はなんとも無いのだが、
トラックなどが一台も停まっていない時に一人で横切る時なんかは、
ついつい見入ったりしてしまう。

暗闇の中にぼうっとそれだけが浮いている。
疲れている時にぼけーっと見ていると、
中に誰か居るのではないか……と妄想をしてしまったりもするのだ。

さて、そんな誰も使わないであろう電話ボックスだが、
人が寄り付かないのには複数の理由がある。

まず、単純に使うことがない。

今の時代は携帯電話一つあれば事足りてしまうからだ。
それでも電池切れなどを起こしてしまった時に必要かもしれないが、
今は携帯の充電に車のシガーソケットを使う人も多いだろう。
なのでよっぽどのことがない限り電話ボックスを使う人は居ないのだ。

そして次。今回の話はここが本題になる。

その電話ボックスには、”出る”という噂があるのだ。

俺自身、そういった話は苦手なので詳細は知らないのだが、
田舎の若者たちの噂話を聞く限りでは……
曰く、髪の長い女が立ってると思ったら瞬きをした瞬間に消えた、だの、
面白半分でその電話ボックスから自分の携帯にかけたら女の声が帰ってきた、だの。

しかしどれも、本当かどうかもわからない「友達の友達が~」というレベルの話だ。
田舎の生活に退屈した若者が、刺激を欲して作った話だと言ったほうが納得できる。

だが、そんな話でも耳に入ってしまえば意識してしまうものである。
先程、自分はそういう類の話が苦手だと言ったが、これには理由がある。

どうやら俺は、所謂”視える”体質なのだ。

ラジオの周波数が合えば番組が視聴できるのと同じように、
俺の周波数と、幽霊の周波数が合う時、見えてしまうのだ。

この地元の田舎に越してくる前に住んでいた都会の物件で、
おかしな女の霊を視てしまってからと言うもの、
俺には霊感というものが備わってしまったようなのだ。
が、この話はまた別の話だ。

そんな曰く付きの電話ボックスだが、俺はその話を小耳に挟んでからと言うもの、
その道を通る度に、意図的に目を逸らすようになってしまった。
本気で信じているわけではないが、先入観というものが邪魔をして、
恐怖を勝手に植え付けるのだ。
それ以来、しばらくその電話ボックスを見ないように国道を通り、帰宅するようになった。

しかしそれも、時間が経てばくだらない話に思えてくる。
若者の作り話にまんまとのせられて怖がっているだけである。
いつの間にかその話とともに、電話ボックスの存在すら薄れかけていった。

それからしばらくしたある日、残業で帰りが遅くなった時があった。
時刻はとっくに日付を回った深夜2時頃、俺は疲れながらも帰路を急いでいた。
疲れている時に運転をすると、どう頑張っても眠気が襲ってくる。
下手な眠気覚ましなど効果がないくらい、運転時の眠気は強烈である。
どうしても我慢できなくなり、
これ以上は危険と判断し、次に見えてくる待避所で一時間ほど仮眠をとることにした。
待避所の看板に従い、ぼーっとした頭で車を停め、
アラームをセットして即座に眠りについた。

聞き覚えのある目覚ましアラームにはっとして飛び起きると、あたりはまだ暗いまま。
仮眠していたことを思い出し、携帯の時計を確認すると、時刻は深夜3時33分。
少し寝すぎたかな。そう思いながらシートを直し、目線を前に向ける。
そこは、あの電話ボックスのある待避所だった。

唐突に、背筋に冷水をぶっかけられたようになり、身体が震えだす。
そこには誰も居ないのだが、何故か目線を電話ボックスから外せない。
なんとなく嫌な感じがする。
ふと我に返った俺は、急ぎ車のエンジンをかける。
始動音とともに、俺の思考も正常に動き出していく。
車が一台も走っていない国道に戻る。

疲れていたとは言え、
あれだけ避けていた電話ボックスのある仮眠スペースに退避するとは……。
だがしかし、いざ間近で見てみれば何ともない。ただの電話ボックスだった。
やはり噂は噂だったのだ。バカバカしい。

などと考えていると、不意に携帯がけたたましく鳴った。
出ようと手を伸ばし、ふと思う。
運転中に電話にでるのはあまりよろしくはないし、時間も時間だ。
だがもしかしたら、さっきまで一緒に仕事をしていた同僚かもしれない。
仕事関連の電話ならば出ないといけない。

いや……それでもこんな時間にかけてくるものだろうか?
少し苛立ちながらも、ながらに電話に出る。

「もしもし?」

……何も聞こえない。
なんだ? と思い携帯の画面を見ると、「非通知」の文字。
同僚ではない? じゃあ誰が……?
少しの間考えていると、不意に電話口からか細い声が聞こえた。

 

「今、見たでしょ」

 

再び背中に悪寒が走る。
まだそれほど離れていない電話ボックスをバックミラー越しに見ると、
その中には、受話器を持って笑う、女が居た。

悲鳴を上げて携帯を放り出してしまい、慌てて拾う。
目線を戻した時には、もう女はそこに居らず、
ただバックミラーには、遠ざかっていく電話ボックスが映っているだけだった。


寂れた電話ボックスに人が寄り付かないのは、
ただ使用する理由がないから、と言うだけではないのかもしれない。
もしかしたら……人を寄り付かせない何かが、そこにいるのかもしれない。

朽ちるまで怪しく光を放ち続ける、その電話ボックスの中に。

朗読: 朗読やちか
朗読: 繭狐の怖い話部屋
朗読: ジャックの怖い話部屋

 COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

なめんじゃねぇ!!

帰れない病院

街灯の下、土手の下

僕の覚醒。姉の声で

出る家