435 views

爪の鳴る音

実家で飼っている犬が息を引き取った、と連絡があった

とても可愛がっていた子だった

シーズーという犬種の小型犬で、小学生だった彼女が母犬の出産に立ち会い

名付け親にもなり、実家を出るまで彼女の思い出の中にはいつもその子がいる

そんな大好きな子だった

その日はベッドでずっと泣いていた

母から具合が悪いという連絡も来ていた

あんなに大切に思っていたのに、なぜ会いに行くことができなかったのか

後悔と罪悪感で押しつぶされそうになりながら、いつの間にか寝てしまっていた

深夜、目を覚ますと体が動かない

金縛りだ

彼女は体質的にそうなのか、何度か金縛りの経験があった

そこで何らかの異常な体験をしたことはない

でもその日は

オバケでもいい!会いに来て欲しい!

そう強く願った

しばらくそうしていると、玄関の方から音が聞こえる

チャッチャッチャッチャッ

フローリングの床の上で爪が鳴る音

何度も聞いたことのある歩く時の音だ

来てくれたんだ

自分のワガママを叶えるために来てくれた

ありがとう、ごめんね

彼女は思いの丈をぶつける

あの時は嬉しかったよ、あの時は叱ってごめんね

いっぱい楽しかったよ、ずっと一緒にいようね

絨毯の上で足音は消えるが、近づいているのは分かる

ハッハッハッという息遣いがベッドのすぐ側で聞こえる

次の瞬間、ベッドの上にググッと足が乗る気配があった

そこで強い違和感を覚えた

飛び乗った、のではなく片足を乗せてきたのだ

小型犬だからそんなことはできないはずなのに

それはそのまま彼女の頭をまたいだ

そこでそれが飼っていた子ではない別の『何か』だと確信する

生臭い息がかかる

得体の知れない何かが目の前にいる

「ネェ」

と目の前の何かが鳴き声?をあげた

「ネェ、ネェ、ネェ」

そのまま目を開けることができなかった

獣の四つ脚に色んな生き物がぐちゃぐちゃに混ざり合っているようなイメージが頭をよぎった

恐ろしいと思ったが、同時に哀れでならなかった

これはきっと人に愛され、人の未練によってこの世に押しとどめられたもの達だ

そんな風に感じたから

どれほどそうしていたか

気配が消えた感覚があって目を開けると、窓の外は白み始めていた

その日は有給を取ってちゃんとお別れを済ませた

   <了>

朗読: りっきぃの夜話
朗読: 繭狐の怖い話部屋

 COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

追いかける死

見分けがつかない

新築事故物件

隣家の住人

川を見てたら

図書室の窓