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空室清掃

私は関西の方で小さな清掃会社をやっている者です。
その日は何度か取引のある不動産屋の仕事で、
とある賃貸マンションの空室清掃の依頼でした。

昼の13時頃現場に着いた私は、管理人から鍵を預かり、依頼のあった301号室に入ります。
部屋の間取りは1Kで玄関から3mくらいの廊下。左にトイレとお風呂。右側にはキッチン。
廊下を抜けると7畳程の部屋があり、奥にはベランダという一般的な間取り。
通常の退去後のハウスクリーニングだったので、作業はスムーズに進み、16時には作業は完了して管理人室に鍵を返しに行きました。

「お疲れ様です。作業完了しました。鍵返します」
「お疲れさん。ところでにいちゃん、床の補修とかってできる?」
「あー、できますけど、どうしたんですか?」
「実は昨日、他の空き部屋のエアコンの付け替えに来た電気屋がドライバー落として、床にキズいってもうてんねんなー。もしいけたら頼める?」
「いいっすよ。何号室ですか?」
「悪いなー、501号室。これ鍵な」

管理人から鍵を受け取り、私は501号室に向かいました。床の傷は傷をパテで埋めて色を塗るだけなので、10分もあれば終わります。そう思って部屋に入り、床を確認すると私は愕然としました。
床の傷は合計6箇所もあったのです。しかも普通にドライバーを落としただけで、付くような傷ではなく、意図的に突き刺したような傷でした。
「騙された!めっちゃ時間かかるやん」
そう思いましたが、やるしかありません。私は渋々作業を始めました。

作業を開始して30分くらいしてから管理人が様子を見に来ました
「どう?直りそう?」
「ええ、いけますけど、これどうしたんですか?普通にドライバー落としただけで、こんなんならんでしょ?」
「それがな、電気屋が言うにはやで…作業終わって帰ろうと思って靴履いてたら、いきなりベルトの腰のところをおもっきり掴まれて、そのまま引っ張られて引きずられた。全然止まらんから床にドライバー刺てやっと止めたんや…って言うんや」
「マジかよ…」
にわかには信じられません。
私は床の傷をもう一度確認しました。傷は玄関から奥のベランダの手前までほぼ等間隔に6箇所。
奥に行くにつれて傷は徐々に深くなっており、最奥のベランダの手前には刺した後、2センチくらい引きずったような傷が入っていました。
私は急に鳥肌が立ちました。

「まあ、傷つけた言い訳やと思うけどな。とりあえずワシは帰るからよろしく頼むわ。鍵は後日郵送でええから」
そう言って管理人は部屋を出て行きました。
正直、そんな話聞かされた後で一人でまともに作業できる気がしませんでした。ですが私のような下請けはとにかく作業を完了させるしかありません。私は恐怖と戦いながら作業を続けました。

なんとか作業を終え、一番深いベランダの手前の傷の補修を終えたのが17時半。
外は薄暗くなってきていました。
「やっと終わった。こんなところ早く出よ」
私は疲労と恐怖からか、やたら汗をかいていました。
作業と片付けを終えた私は、急いで玄関に向かいました。靴を履きたかったのですが、管理人の話の後だったので、流石に座って靴を履く気にはなれません。靴は外に出てから履こうと思い、靴を持ちブレーカーを下ろしました。
その時
「ズリ…ズリ…」
部屋の方から何かを擦るような音が聞こえました。

こういう時は絶対に振り返らない方がいい。
本能がそう言っていました。

ですが正直、電気屋を引っ張ってベランダに出そうとしたモノの正体を確かめたい。そういう気持ちもありました。
冷や汗が止まりません。
「ズリ…ズリ…」
どうするか。
「一瞬振り返ってダッシュで出よう」
そう決意した私は意を決して、振り返りました。
そこには首をくの字に曲げ、ガリガリで3m近い老婆がいました。そして天井に頭を擦り付けながらこちらに向かってきていました。

私はドアを開け、ダッシュで外に出ました。
恐怖で体が震えているのがわかります。
そして急いでドアを閉め、そのまま鍵を掛けました。
何故かその時、鍵を掛ければ奴を封印できる気がしたからです。
そのまま走ってエレベーターに乗り一階にたどり着きました。

気付いたら裸尋常じゃない量の汗をかいていました。やたら喉が渇いていたのも覚えています。

私はなんとか落ち着き、そのままマンションの前の駐車場に停めていた車に乗りました。
私は裸足だった事を思い出し靴を履きました。
「なんやったんやあいつ…」
そう思って車の中から501号室を確認しました。

何故かドアが少し開いていました。
「なんでやねん。あいつ外出れんのかよ…」
私は二度とこのマンションの仕事はやりません。

朗読: 怪談朗読と午前二時

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