緑のおばちゃん

東京で一人暮らしをしていた俺だが、
飛び石連休に有給をくっつけて久しぶりに地元へ帰省していた。
地元で小学校時代からの悪ガキ仲間たち数人と会って遊んだり、飲みに行ったりした。
その晩、AとBと俺の三人は近所の居酒屋で懐かしい話に花を咲かせていたのだが、
その時Aが「久しぶりに俺たちの小学校でも見に行かないか?」と提案してきた。
俺たちはそれに乗ることにした。

夜の田舎道。酔っ払い三人が騒ぎながら小学校へ向かう。
外から見ればいい迷惑だろう。
だが、かつての通学路を歩いていると、昔と今の風景の違いや、
目線の高さが違うことから来る不思議な感動で、わくわくせずにはいられなかったのだ。
少し歩いて大きな道路に出た。そこには横断歩道があるのだが、
俺が小学生のころには信号機もなく、緑のおばちゃんが旗を持って毎朝立ってくれていた所だ。
懐かしい。毎朝挨拶して、手を挙げて横断歩道を渡っていたっけ。
今、その緑のおばちゃんが立っていたところには一本の木が生えている。
よく見ると人の体のように少しくねっており、車道の方に少し伸びた枝が、
ちょうど緑のおばちゃんが出していた旗のようにも見える。
「もしかして、緑のおばちゃん、死んでからも木になって子供たちを守っているのかもな」
とオカルトな冗談を言ってみると、仲間たちの顔色が少し変わった。
「あれ?冗談だよ冗談w」
するとAが言った。
「そうかおまえ東京行ってたから知らんかったんだな。
その緑のおばちゃんやってた人、近所の人で学童擁護員やったんやけど、
ある日、暴走したトラックに轢かれて死んじまったんや」
つづけてBが言う「でも、さすがに緑のおばちゃんだよ、その時子供の犠牲者は出さんかったからな」
「えー、マジで?・・・そんなことがあったのか・・・」
オレは感慨深げにその木をまじまじと見た。
「それで誰かが供養のつもりでここに木を植えたんかなぁ・・・」
ふと見ると、車道側に伸びた枝の付け根あたりにビニールひもが巻いてある。
「誰だこんなゴミをからめていったやつは」
と言ってそれを取ろうとした時、Aが止めた。
「待て、それは伐採する木の目印やぞ、ほれ、見てみい」
と他の街路樹を指さす。
見てみると確かに道路沿いの街路樹のあちこちにビニールひもが巻いてある。
なんでも、邪魔な枝葉や古くなって倒木の危険のある木は剪定や伐採が行われるそうで、
その目印としてビニールひもをかけているらしかった。
言われてみれば確かにこの緑のおばちゃんの木も、車道側に枝が伸びて危ないのかもしれない。

それにしてもさすが地元民のA、よくそんなこと知ってるなと感心していたら、Bもへぇ~みたいな顔をしている。
なんだAが物知りだっただけか?
俺たちは、その緑のおばちゃんの木に守られながら手をあげて、
ついでに足も高く上げながら横断歩道を渡った。
ひとしきり夜の小学校を見て思い出にふけってから、
各自、自宅へと帰っていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。
翌々日のことである。
世間は平日、俺は有給である。
実家で昼近くまで惰眠をむさぼり、母親が作っておいてくれた朝飯を・・・
いや、もう昼飯に近いのだが、それをノンビリ食っていたその時、
Bから電話が来た。
B「大変だ、Aのやつが事故にあって救急車で病院に運ばれた!ヤバイらしい」
俺は驚いて飯をひっくりかえしそうになった。
話を聞くと例の緑のおばちゃんの木を含む道路周辺の街路樹の剪定作業を朝からやっており、
実はAはその作業員の一人として加わっていたのだ。
その作業中に枝葉を積んでいたトラックが突然動き出して、Aを轢いて止まったと言う。

しばらくしてBが自分の店の社用車で迎えに来てくれ、
一緒にAのいる病院に向かったのだが、結局Aは助からなかった。
Aはちょうど緑のおばちゃんの木を剪定しているときに後ろから近づいてくるトラックに気づかず、
そのままトラックと木に挟まれ、しかもその時に持っていたチェーンソーで
自分の肩から首のあたりにかけてを深くえぐってしまったのだという。
最初の話ではトラックに轢かれたと聞いていたのだが、
実はトラックはゆっくり動いてAをそっと押したような感じだったらしい。
Aは運悪く木に阻まれて瞬間的に逃げることができず、
最後は誤ってチェーンソーで自分を切ってしまったのだった。
俺の帰省の後半はAの葬儀に付き合う陰鬱なものとなった。

東京へ戻る最終日、俺はやはり見ておくべきだと思い、
Aの死んだ事故現場に足を運んだ。
そこには、道路側に飛び出していた枝を切られた緑のおばちゃんの木がまだ立っていた。
なにか赤黒いシミを樹皮にしみこませて立っているその木を見てみると、
Aに切られたと思われる枝の切り口から、
まるで血のような真っ赤な樹液を滴らせていた。
俺は逃げるようにその場を去った。

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