扇風機

 私が大学受験に失敗に親に土下座して浪人させて貰っていた頃の話です。

 私は有名な大手予備校の七階建ての校舎に通っており、教室で朝の九時から十八時まで授業を受けたら、自習室に行って二十二時まで自習をすると言う生活を送っていました。
 私は自習室で自習をする際にはいつも窓際の席に座るのが好きで、だんだん暗くなっていく窓の外を見ながら、「俺こんな暗くなるまで頑張ってるなー」と自分を褒めていました。
 その席の窓の外には道を挟んで古いマンションがあり、ある一室のベランダと窓がちょうど真向かいにありました。
 その窓は常に緑の分厚いカーテンがかけられており、夜でも部屋に電気がついてるかどうか分かりませんでした。
 「私は浪人生が見るからなぁ」とか思いながら特に気にしてませんでしたが、夏頃になるとそのカーテンの左下がめくれている状態になりました。
 そのめくれた間からは薄暗い中にぼんやりと白い扇風機が見えており、これもまた夏だからなぁとか思いながら気にしてませんでした。
 しかし夏が終わり少し肌寒い季節になっても、相変わらずカーテンはめくれたままで扇風機が間から見えており、この部屋の住人は窓を開けたりしないのか? と少し不思議に思ってました。

 十一月頃、十五時から突然雨が急に雨が降り出し、雨が止むことを期待して二十二時まで自習をした私は、まだ雨が降ってるかどうか自習室の窓から外を見ました。
 しかし、外は暗く雨が降ってるかどうか分からないので注意深く見ていたところ、向かいのマンションの部屋の扇風機が目に止まりギョッとしました。
 私がほぼ五ヶ月ほど扇風機だと思っていたものは、真っ白い女の人の顔でした。その顔は無表情で虚空を見つめていました。
 私はマネキン? と思いその顔を見ていると、その顔の目がギロっとこちらを向き、目が合いました。
 咄嗟に私はこれはやばいと思い、自然に目を逸らし雨が降ってるかどうかの確認をするふりをして、窓から目をそらしました。
 そしてすぐに校舎を出て駅まで走りました。

 もう二度とあの席には座らないと考え、翌日違う席に座ろうと空いてる席を探しているとふとあの窓が目に入りました。
 その窓の外にはどこもめくられてない緑のカーテンがありました。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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