訪問者

 20年程前のある春の日の話。当時中学1年生の私と小学校からの幼馴染で、同じ中学に通うA・B・Cの仲良し4人組で春休みにA宅でお泊まり会をしようという話になった。
 Aの家は母子家庭で田舎は隣の県、高齢の祖父祖母の顔を見に母親は何か月かに一度一泊で里帰りすることがあった。
 一人で残すよりもお友達と一緒の方が安心、と母親も快くお泊まり会を承諾してくれた。
 特に目立ったイベントも無く春休みに突入し、待ちに待ったお泊まり会の日。
 それぞれ入浴だけ済まして日が沈む前、17時頃にA宅最寄りのコンビニで待ち合わせた。
 夕飯やお菓子やジュースなどを買い込み、意気揚々とA宅へ向かう。
 お邪魔して早速夕飯の準備をしながら、TVゲームの準備を始めた。
 楽しい時間はあっという間、TVゲームに夢中になっている間に時刻は0時を回り一人二人とソファで寝入り始めた。
 私はというと、自宅には無縁だったPCを開きYouTubeに釘付けで目が冴えまくっていた。
 Aも母親が不在の際は夜更かししてゆっくり一人時間を楽しむとのことで、時間を忘れて楽しんでいた。
 気づくと開け放っていた窓から肌寒い早朝の空気と薄明かりが入り込んできていて、時計を見ると早朝4時。
 流石に寝るかと振り返ると、Aも座ったまま寝ていて「ごめん、寝ようか」と声をかけ、ソファで気持ちよさそうに眠るB・Cはそのままに、窓を閉めAの自室に布団を敷いてもらって並んで寝た。
 どれくらい寝ただろう…”ピンポーン”というチャイムの音で起こされた、
 Aは動かない。気のせいかと思ったその時”ピンポーン”、二度目のチャイムが鳴りAが飛び起きた。
 薄目を開けると外はすっかり明るくなり、暖かな日差しが入り込んでいた。
 Aが玄関に向かい覗き穴を見ているのであろう沈黙が一瞬過ぎた後、ドアを開ける音がした。
 私は見上げた先にある玄関からリビングへ繋がる廊下が見える、襖の隙間を見ていた。
 一言二言女性の話し声がして、Aが襖の隙間を通り過ぎリビングへ向かう、そのあと一拍置いて女性が通り過ぎた。
 雰囲気はAの母親に少し似てはいるが髪型や背丈が違う気がする… リビングからは冷蔵庫を開け麦茶を注ぐ音、微かにする話し声…。
 体感では5分程経った頃、Aが戻ってきてそのまま「ふぁーーー」とあくびをして布団に入った。
 私も夜更かしの影響で強烈な眠気に耐えられず、今起こった出来事を深くは考えず再び寝入った。
 次に目が覚めたのは昼の12時頃、A・B・Cの談笑する声がして起き上がりリビングへ向かい「おはよー。あのさ、夢だったらごめんなんだけど…朝誰か来たよね?」
 私の問いに続いてB・Cが「きたきた! 夢だと思ってた!」
 それに続きAが「来たね、部屋入れたよね」と他人事のような返答。
 どうやら4人全員が朝起こった出来事を夢と思い込んでいたようだ。
  気になるのはAが招き入れた女性がだれか… 率直に聞いてみた
「誰だったの? お母さんじゃなかったよね?」
A「知らない人だった」
B「え?なんで入れたの」
A「知ってる人だった気がしたから」
C「なんか話してたじゃん」
A「ん~ね?覚えてないんだよね」
私「でもさ、綺麗な人だったよね? お母さんに雰囲気似てたから親戚かなんかだと思ったけど違うんだ」
A「いや? 親戚にああいう感じの女の人はいない」
C「じゃあおばけじゃん! こわー」
私「嫌な感じはしなかったよね? 霊感ないけど笑」
C「お腹すいた!」
A「ご飯の準備しようか」
 Cの一言で気が抜けてこの話は終わった。
 後日Aはお母さんに一連の出来事を話し「知らない人を招き入れてはダメでしょ!」とこっ酷く叱られたそうだ。
 お母さんが落ち着いた頃に訪ねてきた女性に覚えがあるか聞いてみたそうだが、やはり親戚や知り合いにそういう風貌の女性は居ないそうだ。
 20年経った今でもたまにこの話になるが、霊感皆無の4人は夢として完結している不思議な話である。

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