山小屋での出来事

 これは、病院に勤める妹から聞いた話である。

 妹は、東京都内のとある病院で働いている。
 そこに男子大学生2人が、実習生として入り、そのうちの1人のA君の体験談である。
 A君は、山登りが趣味で、大学在学中も度々、そちこちの山に登っていたとのこと。
 ある時、ボランティアで山小屋の手伝いをすることになり、関東地方のある山の山小屋に赴いた。
 仕事を教わりながらも、心はわくわくして、登山者とのふれあいにも喜びを感じていたそうだ。
 ある日、登山者が全くいない夜のことである。
 A君は、1人で貸し切り状態となって、少し不安はあったが、疲れもあり、すぐに寝入ってしまった。
 すると、夜中、物音で目が覚めて、耳をすますと、人が寝ているような音がして、飛び起きたそうだ。
 窓明かりだけの暗闇の中、目を凝らしてよく見ると、A君とは対称の位置に、寝ている人物が確認できた。
「いつの間に入ってきたんだ?」 と、思わず声に出してしまった。
 すると、その寝ている人物が、 「最初からいたよ」 と、話した。男性の声だった。
 A君は、自分1人の貸し切りと思っていたので、 「気が付きませんでした。すみません」 と、お詫びして、再び寝たそうだ。

 朝になり、起き出して、そういえばと、もう1人の寝ていた人物を確認しようと、見渡したが誰もいなかった。
 A君が、念の為出入り口の鍵を確認すると、鍵は掛かったままだったそうだ。
 その人物が出て行ったのなら、鍵が開いているはずなのにと、大変不思議に思ったそうである。
 山小屋の主人がやって来て、A君は、夜の出来事を話した。
 すると、主人は、 「ここで、昔、あるパーティの遭難事故があって、全員死亡したんだけど、何故か、1人のご遺体だけ、どうしても見つからず、そのままになっているんだよ。その人が時々現れると噂になっていたけど、本当だったんだな」 とのことだった。
 A君としては、1人で寂しかったので、その人物がいてくれて、安心して眠れたという。
 ご遺体が、早く見つかるよう、祈るばかりである。

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