沖縄の神様

 年配の友人Nさんから聞いた話です。

 Nさんは昔から走るのが好きで、有給を取っては旅行ついでに各地のマラソン大会に参加するのを趣味にしていました。 それで沖縄のマラソン大会に出場した時です。
 短めの距離の部を選んで、大会後は他の友人と合流してゆっくり観光する、というスケジュールです。
 Nさんだけ沖縄に早入りし、大会は順調に走り終わりました。
 沖縄の景色は素晴らしく、後の旅行が一層楽しみになりました。
 走り終わり更衣室から出たところで、同じくランナーであろう女性と、年配女性の二人が声をかけてきました。
 お互い労いの声を掛け合った後、ランナーさんは年配の女性を紹介しました。 紹介された年配の女性は、自分は「オートーロ?」「ノートー?」(Nさんもはっきり覚えていない)だと言い、ユタのようなものだと説明しました。
  Nさんはオカルトや宗教に疎く、ユタも名前を聞いたことがあるという程度だったので、そんな霊能者が自分に何の用なのかと訝しみました。
 女性は娘のランナーさんを応援をしにきたところ、自分の神様に導かれてNさんに辿り着いた、と言いました。
「Nさんがどこかの神様を怒らせていて、その神様に私は呼ばれた。とても怒っているのはわかるのだが、話を聞こうにも言葉がわからない。もっと強いユタに観てもらうのが良いだろう」
 要約するとこのようなことを言われました。
 ランナーさんも横から補足してくれましたが、強く訛っていたのと、Nさん自身がオカルト方面に疎かったため完璧にはわかりませんでした。 ただ何か障りがある前に、できれば本土に戻る前に見てもらえ、ユタを紹介することもできる。 そう繰り返されたそうです。
 しかしNさんからすれば胡散臭く、この後の旅程も崩すわけにはいかないと思い、じゃあ帰る前にどこか行きますねといった感じで適当にあしらって逃げました。
 最後に女性は「走るのが好きなら、足を大切にしなさい」と拝むような仕草をされたそうです。
 その後Nさんは友人達と旅行を楽しみ、もちろんユタに見てもらうことはせず地元へ帰りました。

 帰って数日後のことです。
 Nさんは日課の夜ラン中、バイクとの衝突事故に遭いました。
 命に別状はなかったものの、両膝と足首を強くぶつけ、もしかすると感覚麻痺が残るかもしれないと宣告されました。
 その時忘れていた女性の言葉を思いだし、慌ててユタを探しました。
 とりあえずなんとか知人伝いで一人のユタと会いました。
「あなたが受けている障りは神様のものだから、それなりの場所で怒りを買ったんだと思う。ここではない、神様の場所に心当たりはないか?」
 そう聞かれNさんはあっと声を上げ、もしかしてとホテルの側の空き地にユタを案内しました。
 そこはホテルからほど近いやや開けた場所で、石が低く積まれ階段状になった上に、大きめの岩が乗っており、岩の前には四角い石製の箱が置いてありました。 石段の周りは草が綺麗に抜かれて整備されています。
 Nさんは大会前日、ランニング前のストレッチをその空き地で行いました。 夜だったため石箱には気づかず、何かのオブジェだと思い込んでいましたが、明るい場所で見れば何かの墓か祠にも見えます。
 それを見たユタは困りきった顔をしました。
「これは古いウタキで私の手には負えない。神様の言葉も古すぎる、他のユタを紹介するよ」
 そう言って1時間ほど石を拝むと帰って行きました。

 その後、結局二人のユタを介して四人目のユタを紹介されました。
 そのユタは普段、企業や政治家の依頼しか受けていないそうなのですが、 「私の神様がそちらの神様に呼ばれたから」 とNさんと会ってくれたそうです。
 そのユタは一通り見た後、Nさんが神に恨まれているのは、神が座すための石を足蹴にしたからだと言いました。
「確かにストレッチの際に足を伸ばすため手前の階段には登りましたが、岩を蹴ったりは……」 というと、ユタは神の居場所は大きな岩だけでなく、具体的にはこの石箱から先の石場全部が神様の聖域なのだと示しました。
 神様の怒りはNさんが本土の人でゆえの無知でも、悪気が無かろうとも関係ない、と諭されました。
「ただあんたも知らずに恨まれるのは可哀想だから、誠心誠意謝ってみようね」 と言って、早速準備を始めました。
 三日ほどで細かい銘柄や産地・年代を指定したお酒や米や花、塩などが用意されました。 それらを岩の前に供え、その地域でウタキの管理をしている家系の方や、周辺住人も呼び大掛かりな拝みをしました。
 Nさんが驚いたのは、規模ももちろんそうですが、ユタが呼びかければ大勢の人が迅速に対応するという事でした。
 泊まったホテルも、ユタが念の為に敷地で祈らせてくれと言うと場所を貸してくれました。
 その時に初めて、こんなにも霊的な物との距離が近い土地だったのか、と実感したそうです。 同時に、大切に守られてきた聖域を無遠慮に荒らしてしまったことを後悔し、心から謝り続けました。
 拝みが終わった後、ユタはもう大丈夫だとNさんに声をかけました。 しっかり話し、神様には許していただけたのだそうです。
 その後Nさんの足は驚くような回復を見せ、今も以前と同じように走ることができています。
 ユタへの謝礼は安くはなかったようですが、Nさんは後悔はないと言っていました。

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