マガイボトケ

『マガイボトケ』 璃亜里亭 無音

 〇とある雑誌の記事①

 ☆衝撃!令和の世に人面犬大量発生!? あなたは夜道で犬に出会ったとき、その顔をじっと見たことがあるだろうか?
 最近、都内の住宅街で奇妙な目撃情報が相次いでいる。
 小紙読者の諸兄は既にご存じかもしれないが、令和のこの世になんと昭和時代の怪異、人面犬が大量発生しているというのだ。
 編集部が独自に調査したところ、目撃例は一箇所にとどまらない。
 墨田区、台東区、そして足立区の一部でも同様の報告があるという。
 共通する特徴はこうだ――
• 体は中型犬ほどの大きさ
• 顔は人間の子供のようで、目だけが異様に光っている
• 言葉を話すことがある。「お母さん」「ただいま」など、奇妙な声で
 警察は「野犬の見間違い」としているが、編集部が入手した写真には、どう見ても犬の体に人間の顔が貼り付いているように見える。
 これは単なる都市伝説なのか? それとも、何かが始まっているのか――?
 次号では、実際に人面犬を追跡した編集部員のレポートを掲載予定。
 あなたの街にも、すでに“それ”はいるかもしれない。

〇目撃者の証言①
「飲み会帰りに道を歩いていた時に見かけたんです。結構酔っぱらっていたので記憶はあいまいですが、最初は野良犬かと思ったんですよ。怖いから避けようとしたらこっちを振り向いて…人間の子供の顔みたいでした。満面の笑みだったんですけど、泣いているようにも見えた気がします。そして、気持ちの悪い声で『ただいま』って言ってきたんです…一気に酔いがさめて、急いでそこから逃げ帰りました。今でも夢に見ますよ。ほんともう最悪です」

〇目撃者の証言②
「雨が降っていた日のことです。塾に行った息子が傘を持って行かなかったので迎えに行った時に見てしまいました。塾へ向かう道の途中、息子が雨の中でうずくまっているのです。何事かと思ってい近寄って声を掛けようとすると息子は何かと会話しているようでした。雨の中何してるの、風邪ひいてない?と息子に声を掛けようとしたときそれが目に入りました。人の、子供のの顔をした犬でした。人面犬っていうんでしょうか。もうとにかくびっくりして気持ち悪くて、急いで息子の手を引いて家に帰りました。幸いそれが追いかけてくるようなことはなかったのですが、息子が変なことを言うんです。『あの子はママに会いたがっている』って」

〇目撃者の証言③
「人面犬が出るって噂を聞いたんで、友達数人で探しに行ったんです。見たっていう地域を中心に色々探し回ったんですけど全然見つからなくて、がガセネタだったんだと思ってたんですけど、その時、子供のすすり泣くような声が聞こえてきたんです。『おかあさん、おかあさん』って。その場所は公園で、遊具として大きい土管がおいてあったんですけど、その中から聞こえてきたんです。迷子かと思って中を覗いてみると、小さく丸まった犬がいたんです。子供は居ないのかと思ったその時、それがこっちを向いたんです。泣きじゃくったような子供の顔でした。探していたとはいえいざ実際に目にすると気が動転してパニックになってしまって、そこから逃げ出してしまいました。友達のところへ行って、『人面犬がいた!』って知らせて、もう一度その場所へもどったときにはもう、それはいませんでした。友達にはビビッて幻覚でも見たんだろとからかわれましたけど、あれは幻覚なんかじゃありません。確かに、人の子供の顔をした犬でした。それが、「おかあさん」って喋っていたんです」

〇とある雑誌の記事②
☆編集部員、ついに遭遇!人面犬は実在した!?
 前号でお伝えした「令和の世に人面犬大量発生」という衝撃情報。編集部はその真偽を確かめるべく、深夜の墨田区某所に潜入した。
 時刻は午前二時三十分、冷たい雨が降りしきる中、編集部員二名が廃工場跡地へと足を踏み入れた。
 現場は異様な静けさに包まれていた。犬の鳴き声ひとつしない。
 だが、突然―― 「ただいま」
 人の声のようでどこか奇妙な響きを持つ声が闇の中から響いた。編集部員は凍りついたという。
ライトを向けると、そこにいたのは中型犬ほどの影。
 しかし、その顔は…人間だった。
 子供の顔だ。目だけが異様に光り、笑っていた。
 編集部員の証言によれば、その“犬”は二足で立ち上がり、こう言ったという。
「お母さん、帰ろう」
 次の瞬間、影は闇に溶けるように消えた。
 残されたのは、ぬかるみに刻まれた奇妙な足跡――犬のものではなく、人間の足跡だった。
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読者投稿:恐怖の声、続々!
「コンビニ帰りに見た。犬が笑っていた――(足立区・男性)」
「名前を呼ばれた。絶対に私の名前だった――(台東区・女性)」
「車のライトに照らされた顔が、人間だった……(江東区・男性)」 ________________________________________

遭遇危険度ランク • 墨田区:★★★★☆ • 台東区:★★★☆☆ • 足立区:★★☆☆☆ ________________________________________

 次号予告:編集部が入手した“声”の録音データを公開!
 あなたは、その声を聞いても眠れるだろうか――?

〇とある住民の証言
「最近隣の家の人がおかしいんですよね。おかしいと言ってはちょっと失礼かもしれませんが…お隣さん、数か月前にお子さんを交通事故で亡くされてしまっていて、つらい状況にあると思います。ただ、時折奇声を発したり、妙な臭いが漂ってきたり、ちょっと困ってるんですよね…一体何をしているのか…」

〇某大学教員の供述
「〇〇さんねえ…息子さんを亡くされてからなんかおかしくなっちゃって。もともと各地域の伝承的儀式の研究を専門にしていたけど、ここ最近は授業もそっちのけで研究室に閉じこもって何か調べものしててね。なんでも、息子たちにもう一度会いたいとか…息子が死んだという事実を受け入れられないのはわかるけど、こればっかりはどうしようもないことだよね。葬式も上げてないらしいよ。葬儀を上げると魂が完全にあの世に行ってしまうからって。ちょっと普通じゃないよね」

〇授業(過去)①
「本日取り上げるのは、〇〇地方に古くから伝わるものです。死者の魂を現世に呼び戻すためのものですね。そもそも、死者というのは生者が死者を死者として認識することで初めて死者足りうるという考えに基づくものです。生者が行う儀式は死者のためではなく、生者のためのものなのです。では具体的にその儀式についてお話しましょう。儀式の名前は『咆声の回帰』。古くから動物霊というのは比較的簡易に呼び出せるとされています。こっくりさんなんかでも有名ですね。みなさんもやったことがあるかもしれません。こっくりさんで呼び出せるのは低俗な動物霊と言われていますが、その動物霊を媒介に、人間の霊を一緒に呼び戻そうとするものです。具体的には、対象となる動物と人間の骨を重ね合わせ、それを金槌で粉砕し一つにする。それを焚き上げ、鏡に向かい『戻れ』と繰り返し叫ぶ。儀式としてはとても単純ですね」

〇ニュース
「速報です。今日未明、台東区東浅草の交差点で変死体が発見されました。警察によりますと、死体は心臓をえぐり取られていたということで、警察では殺人事件として捜査を進めています」

〇授業(過去)②
「さてこの儀式なんですが、記録によると失敗したときのリスクが高いようです。というのも、呼び出された霊魂が不完全な状態であった場合、生のエネルギーに飢えている状態となってしまう、要は生者を襲うという危険性があるわけですね。そのため、媒介に陥る動物霊は慎重に選ばないといけないというわけです。呼び出したい者と深く関わりのあった動物、いわゆるペット等が多く用いられたようですが、そのためだけにペットを殺すということですから、儀式の成功率が低いのも納得といえますね。都合よく同時に亡くなった動物などがいれば話は変わるのでしょうが」

〇とある女の手記
 また失敗した。これで十三体目になる。
 出来損ないの行く末は知らない。どうでもいい。私はただ、息子にもう一度会いたいだけ、それ以外何も要らない。
 骨も残り少なくなってきた。早く、早く成功させないと。

〇とある雑誌の記事③
☆衝撃スクープ!心臓を抉る怪物――犯人は“人面犬”だった!?
 先日、都内で報道された猟奇殺人事件を覚えているだろうか?
 被害者は30代男性。胸部を切り裂かれ、心臓を抉り取られたという残虐な手口に、世間は震撼した。
 警察は「凶器を使った犯行」として捜査を進めているが、編集部が入手した極秘情報によれば、現場には“犬の足跡”が残されていたというのだ。
 しかも、その足跡は異様だった。
 犬のものにしては大きすぎ、指の形が人間のように長い――。
 さらに、近隣住民の証言が恐怖を裏付ける。
「夜中に聞いたんです。『お母さん』って声と、犬の吠え声が重なって……」
「現場近くで見た犬、顔が人間だった。笑っていたんです」
 編集部は独自に調査を進めた結果、最近急増している“人面犬”の目撃情報と、この猟奇事件の関連性が浮かび上がった。
 人面犬は昭和末期に都市伝説として語られた怪異だが、令和の今、再び現れたのだろうか?
 しかも今回は、ただの怪異ではない。人を襲い、心臓を奪う――その目的は何なのか? ________________________________________

 現場に残された謎の痕跡
• 犬の足跡と人間の足跡が交錯 • 被害者の衣服に付着した獣毛
• 「ただいま」と書かれた血文字(警察は公表せず)
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 専門家コメント 民俗学者・黒崎一真氏(怪異研究家)
「人面犬は昭和末期に都市伝説として広まった存在ですが、今回の事件は単なる噂では説明できません。心臓を奪うという行為は、古い呪術や“返魂”の儀式に通じるものがあります。もし本当に人面犬が関与しているなら、それは単なる怪物ではなく、何らかの目的を持った存在かもしれません」 獣医学博士・白石真理氏 「犬が人間の顔を持つというのは生物学的にあり得ません。しかし、遺伝子操作や感染症による異常変異の可能性はゼロではない。問題は、なぜ人間の言葉を話すのかという点です。これは科学では説明できない領域に踏み込んでいます」
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次号予告:編集部が入手した“犯行現場写真”を公開! あなたは、その顔を直視できるだろうか――?

〇ニュース②
「速報です。台東区内の住宅で変死体が発見されました。亡くなったとみられるのは、この家に住んでいた〇〇さん夫妻とみられています。警察では事件と事故の両面から捜査を開始していますが、一部情報によりますと、二人とも心臓を抉り取られていたとのことで、先般の男性変死事件との関連性が示唆されています。また、住居内からは人骨とみられる骨も発見されており、こちらも合わせて捜査が進められているとのことです」

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