洒落者の幽霊

これは私が昔、一緒に仕事をしていた編集者の話。
社会学・民俗学を中心としていた雑誌や書籍を中心とした出版社だっただけに、地方取材などの機会も多かった。
その時赴いたのは、九州地方のある豪商のお宅だった。

なんでも江戸の昔から知られた家で、
当時のお殿様とも深いかかわりがあったというから名家中の名家である。
約1週間ほどそのお宅に厄介になり、古い書簡や帳簿を見せていただきながら、
同時に由緒ある献上品なども大量にチェックすることとなった。
ただこの家も時代とともに傾き、戦後には商売もやめていたらしく、
現在の主人もあまり古物には関心がないということで、
開けられた蔵はほとんど手付かずの状態だったようだ。
この時は、後日専門の大学教授が入るための下見ということもあって、
一品一品の細かいちえっくよりも大体の勘を掴むのが目的。
早速早朝から、仕事を始めたのだが…。
一応は電気が走り、ぼんやりとした明かりの中で作業を始めると、ふと違和感に気づいた。
何か他紙兄人がいる感覚がするのだが、当然中にいるのは自分だけのはず。
妙だな、とは思ったかが、使用人か誰かが監視役につけられたかと思うと納得がいく。
まあいいか、とばかりに一山ずつチェックを始めた。

するとどうだろう。やはり誰かいる、声もする。
しかも声はだんだんはっきりしてくる。
どうやら品物の由来を語ってくれているらしい。
怖い異常に興味がわいた。
どちらさまですか、と問えば
「〇代目当主の勘右衛門と申します」
と、低調な貫禄のある口調で言葉が返ってきた。
そこには実に大店の旦那衆らしい、上品で上等な和服姿の老人が立っている。
「これは私ども代辺りから代、商売が傾きはじめましてな、それでも先祖伝来のものだけは、としまい込んでいたものがほとんどです。
私どもですら記憶にない品が出てくるやしれません。
なにとぞよろしくお願いいたします。
わたくしもできる限りお手伝いいたしますので」
と実に協力的だった。

実際、その後も内乱中はたびたび現れ、的確な助言をしてくれたという。
しかも無性に印象にのl凝っているは、この勘右衛門という人、無上のお洒落であったこと。
出てくるために服装は違うが、実に上等なものをさらりと着こなしていたという。
調査が終わり、現在の当主に当たる人にこのご先祖様について聞いてみたところ、
どうやら7-8代前の当主で、商売よりも遊びが好きで、粋な人物だったらしい。
それでもまだ住み着いているということは、
少しは自分の行いを反省しているのでしょうかね、と当主は苦笑いを浮かべていた。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-

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