強行遠足2年目の死

これはボクがまだ高校生だったころのお話です。

札幌でも不良の集まることで有名だった高校に通っていたのですが、この高校の名物とも言えるのが
真駒内から支笏湖への33キロを走破する「強行遠足」というものです。
支笏湖へ通じる道と言えば、怪談でもたびたび語られることのある例の道ですが、
もちろん当時はそんなこととはつゆ知らず、ただひたすらに歩いていました。

1年目の初参加の時です。
峠の途中のカーブでガードレールが破れている所があり、
そこから下をのぞくと一台のクルマが谷底まで落ちていました。
クルマのテールランプがこっちを向いています。
急な崖で、無理して降りれば降りて行けそうな気もしましたが、
登ってくるにはロープでもないと難しそうだったので、
上から眺めるだけにしました。
崖下のクルマはあちこち錆も見られ新しくもなさそうだったので、
たぶん乗っていた人はもうとっくに救助されたんだろうと 勝手に想像し、
そのまま強行遠足に戻りました。
運動部の連中が2時間ちょっとでゴールしたのに対し、
当時美術部員で運動音痴なボクは6時間もかけてやっとゴールして
ヘトヘトになりながら帰宅したのでした。
人生のなかで一番足の筋肉を使った日でした。

翌年2年目、またしても「強行遠足」の日が訪れました。
1年目にあった崖下のクルマのことを思い出し、
その場所に差し掛かった時にまた崖下をのぞいて見てみました。
すると去年のクルマがまだ崖下にあったのです。
「えーー!?誰もあのクルマ回収しないのかよ!」
と思っていたら、近くにお巡りさんがいる。
たぶん今回の強行遠足のための警護とかなのでしょう。
そのお巡りさんに、崖下のクルマのことを言って案内すると、
にわかに無線機を取り出して本部に連絡をとりだしました。
確認だと思いたい。
だって、まさか今、はじめて発見したんじゃないだろーな?と、悪い予感。
そうだとしたら、あのクルマにはまだ救助されていない人が乗っている事になるじゃないですか。
本当ならここから先どうなるかをずっと見ていたかったのですが、
なんせボクの足では6時間もかかってしまう強行遠足。
ここでノンビリしていたら、陽のあるうちにゴールできなくなってしまいます。
後のことは警察に任せて強行遠足に戻ることにしました。
ところで今年はバイクで来ているやつもいます。
元クラスメートのS君です。
彼は素行不良のドつっぱり。かなりアブナイと噂の男。
数週間前に学校を辞めていった元同級生です。
めんどくさい学校を辞めて自由を手に入れ、
ついでにちょっと改造した新しいバイクも手に入れ、
それを我々元同級生たちに見せびらかすため、
バリバリとエンジン音を鳴らしながら盛んに峠道を
行ったり来たりしてあおっているのです。何が楽しいんだか。

そんな2回目の強行遠足も死ぬ思いでようやく完走し、
ぐったりしながらようやく帰宅しました。
家に帰ってからは、体力ゼロでだらだらしながらテレビのニュースを見ておりました。
もしかしたらあの崖下のクルマのニュースでもやるんじゃないかと思ったからです。
そしたら案の定、支笏湖へ向かう峠道で事故があったというニュースが流れてきました。  
ハッとしてテレビ画面に向き直ると、
なんと事故とはクルマではなくバイク事故の事でした。
ガードレールをつきやぶって崖下に転落、即死・・・。

そう、彼です。S君です。
あの見せつけるように走り回ってた彼、
あんなに元気そうに人をあおって走っていた彼が、
例の崖下に落ちたクルマと同じ場所で死んでたんです。
ボクは帰ってくるまでそのことにまったく気づきもしませんでした。
中退した生徒のためか、学校でもその事に関する発表のようなものは特になく、
ただ、3年目は強行遠足はなぜか中止になっておりました。

単に事故多発地帯だったのか、
それとも崖下のクルマがS君を呼んだのか・・・。
今となってはもう判りません。
できればもう一度、あの峠道を歩いて確認してみたいと思っています。
あの崖下に、今でもまだクルマの残骸があるのかどうか・・・。

朗読: 怪談朗読と午前二時

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