正月に祖父母から聞いた話。
箱根にとある老舗旅館があるんですが、
40〜50年前に夫婦でよく泊まりに行ってたそうで。
いつもは2階の部屋なんですが、その日に限って1階しか空いてない。
その部屋、妙にカビくさい。
窓の外には澱んだ池があって、すぐそばにでっかい石碑がある。
墓じゃないか?なんて笑ったりしていたそうで。
その日の夜……。
寒いなあと思ったばーちゃんが、
隣のじーちゃんの布団に潜ろうとすると、じーちゃんがいない。
しばらくするとじーちゃんが戻ってきて、
近くの温泉に入ってきたと言うんです。
明かりの消えた部屋にじーちゃんが入ってくると
ガタガタ、ガタガタ……と音がする。
浴衣のじーちゃんからはありえない。
重たい金属と、数人の足音です。
ばーちゃんが目を凝らすと、そこには。
仁王のように体格のいい、4,5人の甲冑姿の男たちがついてきている。
ガタガタというのは、その甲冑の音だったんですね。
ばーちゃんが大声で叫ぶと、すうっ……とそいつらは消えていきました。
じーちゃん曰く、行った温泉というのは部屋から見える石碑の近くで。
「ひとりぼっちは寂しいなあ」
なんて言いながら、鼻歌まじりに一人風呂を楽しんでいたそうで。
話を聞いたばーちゃんは
「そんなこと言うからついてきちゃったんじゃない!!」と怒ったそうです。
翌朝、旅館の人が、例の石碑が墓だと教えてくれました。
その旅館は江戸時代にできたもので、以前あった古墓地を更地にして、
石碑の場所にまとめたんだそうで。
ちなみにばーちゃんが見た甲冑は、江戸のものじゃない。
もっと古くてボロだった、と。
だとすれば例えば……平安・鎌倉時代。
源平合戦のあと、逃げ延びた平家の落ち武者とか……