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植物屋敷依存

同僚の圭子さんのアパートは、大きな川の土手沿いにあり、
「休日の夕方に土手をランニングするのが楽しみなんです。」 と話していた。

対岸には、有名な桜並木があり、
その季節には、橋を渡り桜並木の中を走り抜けると、とても気持ちがいいらしい。
土手沿いの民家に、沢山の草花の鉢やプランターが、所狭しと並ぶ家があった。
チューリップなどの花のプランターやら緑色の葉っぱだけの鉢もたくさんあつたという。

ある時、その中にちょこんと座る猫がいて、圭子さんは思わず足を止めてしまった。
暫く眺めていると、おばあさんが出てきたので、圭子さんが、
「凄い数の鉢ですね。お世話も大変ですね。」 と言うと、
おばあさんは、 「家の中にもいっぱいあるよ。水やりで一日終わる。」 と言って笑った。

しかし、それからが大変だった。おばあさんの話が止まらない。
草花の名称とか、土手を歩けば色々な花がある事とか、鉢の増やし方などが延々と続き、
草花に全く興味が無かった圭子さんには、とても苦痛だったらしい。
途中で、玄関の中を見たら、かなりの数の鉢があり、居間の棚にも窓の上の方まで鉢が見えていた。
猫はいつの間にかいなくなり、帰り際にパンジーの苗を持たされて、ようやく解放されたそうだ。

圭子さんの話を聞いて、私には、テレビなどで目にするゴミ屋敷のゴミと同様に、草花を増やす事も同じ事のように思えた。
恐らくこのおばあさんの家の中にも草花が溢れ返り、
窮屈な植物屋敷となっていても満足しているのだと思う。

ある夜、圭子さんは夢を見たそうだ。
植物屋敷のおばあさんの夢で、部屋の真ん中に座るおばあさんの腕から枝が伸びていた。
まるでジャガイモから芽が出るように、
おばあさんの身体は益々シワシワになって養分を吸い取られているように見えたそうだ。
それで目が覚めると、圭子さんの身体が動かない。
(金縛り?) と思っていると、暗闇に少しずつ目が慣れて、何かの気配を感じた。
眼球だけで確認すると、なんとベッドの横に植物屋敷のおばあさんが佇んでいて、何かをぶつぶつと囁いていた。
(うわぁ!)
逃げ出したくても身体が全く動かせない。
恐怖を通り越して苛立ちを感じたそうだ。
やがておばあさんは、頂いたパンジーの鉢の中にスーッと吸い込まれていったという。
圭子さんは知らないうちに眠ってしまい、朝を迎えた。
起きてみると、昨夜の事は全て夢だったのかなと思いつつも、
動けなかった時の腹ただしい感情だけが残っていて、酷く気分が悪かったそうだ。

その日の夕方、ランニングに出ると、おばあさんの家の前にパトカーと救急車が止まっていて、近所の人が集まっていた。
おばあさんは、家の中で、草花の鉢の中に埋もれ、亡くなられていたそうだ。
圭子さんは、 (おばあさんは、助けを求ていたのか) と納得したそうだ。
と同時に植物屋敷のたくさんの草花がどうなるのか、物凄く心配になった。

おばあさんは1人暮らしだった。
それから暫くして、圭子さんが無断で会社を休んだ。
電話にも出ないので、私は心配になり、彼女のアパートを訪ねた。
玄関ドアが開き、圭子さんがゆっくり顔を出した。
「具合悪そうだね。大丈夫?」
圭子さんは、申し訳なさそうに、
「すみません。起きれなくて、今、会社に電話しました。」 と答えた。
ふと部屋の中に目を向けて、私は言葉を失った。

そこには、足の踏み場が無いくらい、草花の鉢がたくさん置かれていた。

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