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階段とカセットデッキ

お世話になっている方の奥様、Hさんから伺った話です。

今から30年ほど前、まだCDやMDは普及しておらず、
音楽を聞くのにはもっぱらカセットテープが使われていた頃。
当時高校生だったHさんはある時、友人Nさんの家に泊まりで遊びに行くことになりました。
昔から仲がよかったHさんとNさんですが、Nさんが両親の仕事の都合で少し町中に引っ越してしまい、
Nさんの新しい家に泊まりに行くのはその時が初めてだったそうです。

Nさんの住まいは古いアパートの2階、階段を上がってすぐの部屋でした。
Nさんのご両親は不在だったため二人でご飯を食べ、
勉強したりおしゃべりをしたり、のんびりと夜を過ごしていたそうです。

九時をすぎて話も途切れがちになってきた頃、Hさんはふと、あることが気になりました。
Nさんの部屋にはカセットデッキがあり、当時はやっていた曲をカセットテープに録音したものを流していたのですが、
それがさっきから時々、変なところで止まるのです。
押し込んでいた再生ボタンが、カタンという音を立てて勝手に戻ってしまい、
その度にNさんがまたボタンを押す、というのが、何度か繰り返されていたのです。

はじめは 「A面が終わったタイミングなのかな」 と思っていたのですが、
ボタンを押せばまた続きが再生されているし、テープをひっくり返しているわけでもない。
どうやら設定事態はオートリバース、つまりA面が終われば勝手にB面を再生し、
またA面に戻る、というふうになっていて、実際に面が勝手に切り替わるタイミングも確認できていたそうです。
ではなぜ勝手に再生が止まってしまうのだろう、と不思議思ってNさんに尋ねると
「ああ気にしないで。それ、夜は時々そうなるの。」
とあまり意に介してない様子。
「壊れてるの?」 と聞くと
「ううん、外の階段を誰かが上がってくる音がしたら、止まるの」 とNさん。
意味がわからないというHさんの表情を見て、
Nさんが 「もうちょっとしたらまた来るから、その時言うよ」 と再生ボタンを押しながら笑うので、
しばらく黙って音楽を聞いていると、外の階段を誰かが登ってくる音が聞こえてきました。
金属製の階段を登るカンカンという音が近づいてきて、
ちょうど階段を登りきったというタイミングで、カタン、と再生ボタンが外れました。

「ね?」 とNさんが笑います。
「いや、ね、じゃなくて、なにこれ」
「わかんないけど、夜カセットきいてたらよくこうなるんだよね。ま、それだけなんだけど。」
「いつもなの?夜だけ?」
「うん」

確かにそれからあとも、何度も同じことが起きたそうです。
古いアパートだから、振動でそうなるのかもしれない、とHさんは無理やり自分を納得させたそうですが、
二階に3部屋しかないアパートに、そんなに何人もの人が、
一人づつ時間を空けて帰ってくるという不自然さと、
階段を登りきった足音が2回の廊下を歩く音やドアを開ける音は
いちども聞こえなかった点は、どうにも腑に落ちなかったそうです。

「しかもね、どう考えてもあれ同じ人の足音だと思うのよね。
そりゃ住人がみんなおんなじ体重で同じ靴で同じ歩き方のクセがあるっていうなら、まあ納得するしかないけど。
でもそんなこと、ある?気づいてからだけでも15人以上はいたわよ?」

Hさんはそれ以来、Nさんの家に泊まりにへ行ってないそうです。

朗読: 朗読やちか

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