これは、とある会社員の男性・Kさんが20代の頃に体験したという話です。
当時、Kさんはいかにも昭和らしいボロなアパートで一人暮らしをしていたそうです。
普通に働いて、普通に遊び、食べて寝る。
同じような日々の繰り返しではあるけれど、まだ日本の経済が安定していた時代だったという事もあり、若いながらとても充実していたと話していました。
そして、それが起こったのは一人暮らしを始めて3年が経った夏の夜。
その日、Kさんはあまりの寝苦しさで目を覚ました。
全身汗だく、喉もカラカラ。 とりあえず、水でも飲もうと台所へ向かった所、妙な光景が目に入りKさんは立ち止まった。
台所の流し、その上にはすりガラスの窓がある。 その窓の外が赤かった。
赤いライトを照らされているような感じだったそうです。
なんだろう?…と思い、Kさんが外を確めようとすると、ピンポーン… と、呼び鈴が鳴った。
Kさんはギョッとして、ドアを見た。
そして、壁に掛けてある時計に目をやる。 時刻は深夜の2時過ぎ。
(こんな時間に誰だ?)
Kさんが訝しんでいると、 「警察です」 と、ドアの外から男の声がした。
(警察?こんな時間に?)
もちろん、Kさんには警察のお世話になるような心当たりはない。
(何か事件でも起きたのだろうか?)
そして、窓の赤いライトはパトカーの赤色灯だと思い至った。
Kさんはとりあえず応対しようと思い、 「はい、今出ます」 と、外の警察だという男に向かって声を返した。
すると、 ピンポーン… と、呼び鈴が鳴り、 「警察です」 と、同じ言葉が返ってきた。
「はい、今出ますから」
Kさんは急いでズボンを履き、水を飲みドアに向かった。
そうしたら、再び… ピンポーン… 「警察です」
(………?)
それは直感だったのだろうか。 Kさんはなんか変な胸騒ぎがして、ドアを開けるのを躊躇った。
なんか、この警察官だという男は何か変だ。
Kさんは、なんとも言えない気持ちの悪さを感じたとも言っていました。
ドアを開けずにしばらく様子を伺っていると、再び… ピンポーン… 「警察です」
そしてまた、しばらくすると… ピンポーン… 「警察です」
それはまるで、録音したものを繰り返し再生しているような感じだったそうです。
そして、Kさんはある事に気がつき、真っ青になる。
パトカーの赤色灯は、こう、点滅しているように見えないだろうか。
窓のそれはただ赤い。 それに、このアパートの駐車場はベランダ側なのだ。
入り口側に車を停められる場所などない。
ピンポーン… 「警察です」
Kさんはあまりにも異様な状態に動けなくなってしまった。
恐怖で強張った顔でドアを凝視する事しかできない。
その間も、 ピンポーン… 「警察です」
それが繰り返される。
そして、そのまま数時間が経ち外がうっすらと明るくなり始めた頃、スッ…と、窓の赤いモヤがかった明かりが消え、警察官だと名乗る「何か」の気配も消えたそうです。
Kさんが奇妙な体験をしたのは今に至るまで、それ以外には一切ないそうです。
今でもたまにオカルト番組などが目に入ると、 (あれはなんだったんだろうか…) と、考えに耽る事があると話していました。