死人のアカウント

 数ヶ月前の呑みの席で、オカルト大好きな俺が怪談を収集している……という話をしたところ、各々が持ちネタを披露する、ちょっとした怪談会に発展した。
 大半は「まあよくある話」で落ち着くもので、怖いっちゃ怖いのだが、目新しさもパンチもなく、こんなもんか〜と思っていたところ、ずっと黙って話を聞いていたケイスケという友人が「これ…話していいかわからんのだけどさ」と切り出した。
 お、タブーに斬り込むタイプの話か……!? と興味をそそられた俺は、くい気味に聞かせてほしい! と頼んだ。
 以下、ケイスケの話。

 ケイスケには中学からの付き合いである友人がおり、仮に名前をタイチとするが、そのタイチが数ヶ月前に自殺をしたのだと言う。
 ブラックな工場勤務で上司から毎日パワハラをうけ、それでもずっと耐えて頑張っていたのだが、ある日とうとうその上司を殴ってしまった。
 間に入った工場長の判断で一度家に帰されたタイチは、その日のうちに自宅で首を吊って亡くなった。
 遺された遺書には、育ててくれた祖父母と、唯一無二の親友だったケイスケへの感謝と謝罪、上司を殴ったことと一連の騒動の詳細、上司と会社への謝罪が、震えた字でしたためられていた。
 葬式のあと家に帰って呆然としていたケイスケだったが、タイチの思い出に触れたいと思い、なんの気無しにタイチに勧められて登録したTwitterを開いた。
 ずっと放置していたので、フォローもフォロワーもタイチただ1人のままだった。
 タイチのツイートを確認すると、死の間際までツイートがされており、内容といえば、「疲れた」「しんどい」などの言葉や、上司に対する愚痴が2、3日置きに呟かれている。
 フォロワーはそこそこいるにも関わらず、それに対する反応はなく、なんとなく寂しさを感じた。
 もっと早く、タイチの気持ちに気付けていれば…このツイートを見ていれば…。
 居た堪れない気持ちになり、その日はそれ以上見るのをやめた。

 数日後、なんとなくまたTwitterを開くと、タイムラインにタイチのツイートがあった。
 一瞬固まったが、もしかしたら祖父母や警察がタイチのスマホを弄っているだけかもしれない…と思い直した。
 ツイートの時間は3時間前となっており、空欄のまま5秒の動画が添付されている。 真っ暗な画面に、5秒の無音。
 きっと祖父母が誤ってカメラを触ってしまったんだな…。 そう思った。
 だが、おかしなことにその5秒の動画はその後毎日投稿された。
 決まって時間は16:37だった。
 Twitterに不慣れなケイスケは、Twitterの仕様なのか?とも思ったし、なにかしらのバグなのかとも思った。
 それが1週間ほど続いたある日、動画にちょっとした変化が現れる。
 その日の動画はいつもの真っ暗…ではなく、夕暮れに染まったどこかの室内だったのだ。
 そして、ケイスケは気付いた。 間取り、カーテンの柄、映画のポスター、マーベルヒーローのフィギュア、ちょっとガキっぽいパソコンデスク…それら全てに見覚えがある。 タイチの部屋だ。
 タイチの部屋が、何故だか俯瞰撮影されている様だった。
 断続的に繰り返し流れ続ける5秒の動画。
 少し躊躇ったものの、動画をタップして拡大させる。
 拡大と同時に音声も流れはじめて、また驚く。
 今度は無音ではなく「ジーーー…」という機械音みたいなものの奥で、嗚咽するような声が入っていた。
 しばらくそのまま呆然とスマホを見つめていたが、ハッとしてタイムラインに流れるままだった過去の動画も拡大させ、音声をつけて見てみることにした。
 そこには、真っ暗な画面の中、ひたすらに嗚咽を漏らし、時折「ごめんなさい…」と呟くタイチの声が入っていたのだ。
 ケイスケは泣いた。
 助けられなかったことを悔やみ、また、苦しんだ友への惜別の念からだった。

 翌日も翌々日も、Twitterを開いて動画を見る。
 そしてタイチが亡くなって2週間目のこと。
 動画の死角になる場所から、手にロープを持ったタイチがゆっくりと姿を現し、ロフトへと向かう映像が投稿された。
「やめろ…」
 そう言いながらも、ケイスケはスマホを片手に食い入る様に動画を見続けた。
 動画は5秒で繰り返しになるはずなのだが、何故か秒数だけが繰り返され、映像はそのまま「行為」を続ける。
 ごめんなさい、と繰り返し呟き、ロープをロフトの手摺にかけて、首を… しばらくはジタバタと手足を動かしていたのが、ふっと力がぬけたようになり、瞬間、「死んだ」と悟った。
 繰り返される秒数、だが、動画は終わらない。……
「…で、しばらくそのまま見ていたら、キッチン側のドアが開いて、誰か入ってきたんだよ」
 もうこの時には、女の子たちは耳を押さえたり抱き合ったり、男共は酒を飲む手を止めて食い入る様にケイスケの話を聞いていた。
「…誰だかわかったの?それ?」
  俺が聞くと、ケイスケは顔を伏せて少し詰まりながら答えた。
「俺…」
 いや!と、女の子が小さく叫び、「なんだよそれ…怖ぇえよ!」「どういうこと…?」と、個室が騒然となった。
「わからない…けど、あれは俺だった。カメラに近づいてきて回収してたから、顔はドアップで見てる…」
 そう言うケイスケの顔は、笑っている。 その笑顔を見た友人の1人が「なんだよ〜作り話だろ?もー…」と安心したようにいうと、それに乗じて皆も「怖〜!」「意外な才能だな〜」と、一転和やかなムードに変わった。
 ケイスケはそれに否定も肯定もせず、笑っているだけ。
 たしかに、葬式に参列するほど仲良くしていた友人の自殺を、こんなふうに怖い話として披露する奴の気が知れないし、なによりケイスケはそんな奴でもない。
 きっと「タイチ」という友人もフィクションに違いないと思った。
 そうであってほしい、という願望でもあったかもしれない。

 そして、ここからはその後の話。
 飲み会が終わり家に帰ると、ケイスケからLINEでTwitter動画のリンクが送られてきた。
“TAIさんはTwitterを使っています”
 夕焼けに染まる部屋のサムネイル。
 ゾッとした。
 例の話、本当だったのか…?
 流石に開く気になれず、かと言って削除するのも…と思った俺は、幼馴染であり霊能力がある八潮大先生に相談しようと思い立った。
 八潮はこういうことを心底嫌うので、相談内容は伏せたまま、俺んちでゲームしながら飲もう!と、その場でLINEして数日後に会う約束を取り付けた。
 当日、いい具合に酒が回り、Wiiのマリカーを懐かしみながらやる八潮。
 そろそろいいかなぁ…と、話を切り出そうとしてスマホを手に取ると、八潮はキョロキョロとあたりを見回し、その視線は俺のスマホにロックオンされた。
 八潮は苦虫を噛み潰したような非常に不快そうな顔で俺を睨むと、「お前、またなんか変なことしてんだろ」と溜息混じりに言う。
「流石っすね…」と言い終わらないうちに、「すぐ消せよ。あとそいつとはもう関わるな。もう手遅れ」と吐き捨てる様に言い、マリカーを再開させた。
 動画を削除しながら、「手遅れとは…?」と聞くと、八潮は少し間を開けて、「魂」と一言だけ言った。
 それ以上聞ける様な雰囲気ではなくなってしまい、忘れる様にして俺もマリカーに参加したのだった。

 その後、ケイスケとは連絡を取っていない。
 俺も俺の友人たちも、何故だか自然と連絡を取らなくなり、ケイスケから連絡が来ることもなくなった。
 今、ケイスケが無事でいてくれることだけを願っている。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ
朗読: 読書人流水

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