どこに繋がったのか

 これは、もう10年以上前の話です。


  私の通った中学は山の中で、 いつも物凄い坂を登って門をくぐる小さな学校でした。
 山の中、と言っても、別に木が生い茂ってる道を行くわけではないのですが、コンクリートの崖のような急な坂を登って通うのは毎朝億劫でした。
 そんな坂のふもと……つまり学校のグラウンドの脇には、小さな神社がありました。
 夏にはお祭りなんかして、山に学校があるような田舎ではみんなそのお祭りが一大イベントな訳で、その土地の人ならその神社と、そこの鳥居に続く真っ直ぐな大きな道のことは誰でも知っていました。
 ただ、私は訳あって中学から引っ越してきた余所者だったので、友達が神社の話をした時に「なんだか変だね、こんな真上に学校を建てるなんて」と言ったら「真上に中学だけど、昔は前の通りに小学校があったんだよ、今は廃校だけどね」と教えてくれました。
 ちょうどその時は夕方で、廃校になった小学校の横には神社が管理する大きな木が、小学校だった場所のフェイスや歩道のアスファルトを歪に歪めながら無理やり生えているのを目にしてしまい、なんだか少しゾッとしました。
「この御神木、なんか切ったら怪我とかするらしいよ。」と話す友人が指を刺しながら「もしもまだケータイ持ってないなら、公衆電話はこの木の下にあるから何かあったら使ってね」と教えてくれました。
  当時はまだスマートフォンなどなく、メールもパソコンを持ってる子か家の事情でケータイを持ってる子だけの連絡手段であり、公衆電話の数は減ってもまだまだ現役の扱いでした。
 その公衆電話はよくある緑色の少し寂れた電話ボックスで、ちょうど御神木の木の根の横にあり、中からは廃校の校舎と神社のどちらもが見えるという事から私は「役満ってこういう時に使うんだな…」なんて考えながら、友人にお礼を言ってその日を終えました。


 ある日、自分のケータイの充電がなくなってしまい、どうしてもすぐに連絡を取らないといけない相手がいた為、私は1番近いその「役満の公衆電話」に向かいました。
 その日は冬で日が落ちるのも早く、あたりは真っ暗のなか、電話先の番号を握りしめて公衆電話まで走って行くと、ぼんやりと電話ボックスの薄明かりだけで照らされた道が見えました。
「よし、誰も使ってない」と安堵し、電話ボックスの中に入って受話器を耳に当てた時、ふと「ツーツーツー」と接続音が鳴っている事に気がつきました。
 私はまだ財布に手をかけて小銭を出そうとしているのに…?と疑問には思いましたが、瞬時に「いや、10円くらい得したのかも、ラッキー」とそこからお金を追加して相手の携帯番号を入力しました。
 番号を入力し、コール音を聞いていると突然「ざ……ざざ……ざざざ……」とノイズが走り「ピーーガガガガガ」と、まるでFAXのような音がなります。
「えっ」とゾッとしていると受話器の向こうから「オかケに……ナッた電話…バンごうハ……現在……ツカわレて……ぉりマセン……」と声の高さが著しく高くなったり低くなったりする女性の機械音声がノイズ混じりに再生されました。
「わぁぁぁ!」と言いながら受話器を置いて電話を切ると、さっきあるだけ入れた分の私のお金が全額返ってきており、足元から寒さが込み上げて泣きそうになりました……。


 結局、その日に本人と連絡はつかなかったのですが、それ以来あの公衆電話は使っていません。
 ただ、何年か前に御神木だけは綺麗に撤去されたとの噂を聞いて、まだあの場所に電話ボックスはあるのなら…次はどこに繋がるのか少しだけ気になります。

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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