小学校三~四年の頃だったと思う。
地域の夏祭りの夜、一年生から六年生ぐらいまでの十人程の男子だけで構成された一行で会場をブラブラしながら、自治会が出店している露店でクジを引いたり、フランクフルトを買ったりしていた。
賑やかな祭りの中心で高学年の子が「あっ、あれ見て!」と、ある方を指差していた。
揃ってその方向に頭を向けると、そこは夜の闇に暗く沈んだ小高い造成地だった。 その造成地に小さくポツンと光る点が見えた。
「あれ何やろ?」 「誰かおるんかな?」 「火の玉ちゃう?」 私は『火の玉ちゃう?』という言葉で、ちょっと怖くなった。
「あれ、確認しに行かへんか?」 最初に光を見つけた高学年が提案した。一行がザワザワした。
「え?みんな怖いん?ビビってるん?」 皆を挑発するように聞いてくる。
「おれ、行くわ!」 何人かの高学年が話に乗り、私より年下の子の中にも志願する子が出てきた。
私はと言うと、その光に何やら恐ろしい雰囲気を感じた。
『飛んで火にいる夏の虫』という諺が浮かんだ。
「やめた方がいいよ、僕は行かない……」 「弱虫やなあ、こんな子も行くのに~」 と私より年下の子を指差しながらバカにされた。
居残り組を祭りの会場に置いて、確認隊が出発した。
途中まで光に向かって歩いて行く姿が見えていたが、やがて闇に飲まれて見えなくなった。
残った子達で祭りを楽しみながらも、度々光を確認していた。
が、何度目かの確認の際には光が消えていた。
それから暫くして確認隊が帰って来た。
「正体は何やったん?」 と私が聞くと 「空き缶……」 と、第一発見者の確認隊リーダーが小声で答えた。
「え?空き缶?」 私が聞き返すと 「空き缶が月の光を反射して光ってたんやっ!空き缶やっ!空き缶っ!」 怒鳴りながら光の正体を教えてきた。
なんで私が怒られないといけないのかと理不尽に思った。
でも、怒鳴ったリーダーの顔は真っ青だった。他のメンバーも黙ったまま、同じく血の気を失っている。
小学生は帰らないといけない時間になったので、そこで解散し、私は一人で帰宅の途についた。
自転車を漕ぎながら夜空を見上げると夏の大三角形がよく見えた。
でも、どこにも月は無かった。
『月の光が反射して』と言っていたのに。
時が経ち、私は中学生になっていた。
確認隊のリーダーは見事なヤンキーになっていた。
更に時が経ち、二十歳になり、小学生の時に埋めたタイムカプセルを開ける為に同級生が集まった。
「〇〇先輩っておったやろ?」 髪を染めた同級生が聞いてきた。
〇〇先輩とは確認隊のリーダーのことだ。
「死なはってんで」 「え?なんで?」 「バイクでカーブ攻めてはった時に、車に踏まれたペチャンコの空き缶でバイクが滑って転倒して、頭パカーンや」 「空き缶……」
あの夜、確認隊が見たと言った空き缶と重なってドキッとした。
あの夜の光が本当に空き缶だったとしたら、何故皆真っ青だったのか。
月も出ていないのに、月の反射で光ってたと言ったのは何故だったのか。
本当に空き缶だったのかも知れないが、その空き缶に何かあったのだろうか……
臆病な私には、真相は謎のまま。
あの日確認しに行った他のメンバーは、今どうしているのだろうか。