これは、同級生のT君から聞いた話である。
T君は、北海道A市で専門学校の教師をしている。
この度、私達の同期会の開催にあたり、T君は、幹事としてグループラインを立ち上げ、開催前から盛り上げてくれた。
そして、同期会で久しぶりに再会した際には、懐かしさで話は尽きず、最後に、 「これは、俺の不思議な体験談なんだけど、俺の生徒達にも、必ず話すようにしている話がある」 とのことで、みんなでその話を聞くことになった。
今から二十年程前のある日、T君は、勤務している専門学校の広報活動で、出張することになった。
それは、高校生対象の学校説明会に参加する為で、北海道の中標津町(なかしべつちょう)に向かった。
早めに到着したので、宿泊先の川湯温泉の宿にチェックインをお願いして、温泉に入らせていただいた。
さっぱりしたところで、自動販売機のお茶を購入し、部屋の前までくると、佇む人影があった。
よく見ると、自衛隊の格好をした若い男性が、ちょうど、T君の部屋の前に立っていた。
仕方なく、避けて部屋に入ろうとすると、その自衛隊員が、 「私に水分を分けていただけませんか」 と言ってきた。
T君は、 (自衛隊も頑張ってるからな) と思って、たった今、買ってきたばかりのお茶のペットボトルを、 「これ、どうぞ」 と差し出したそうだ。
自衛隊員は、喜んでペットボトルを受け取ると、顔の前でクルクルと回しながら、やがて、困った表情を見せた。
T君は、 (開けられないのかな) と思って、もう一度ペットボトルを取り、蓋を開けてから手渡した。
すると、自衛隊員は、嬉しそうに、 「ありがとうございます」 と言って、ペットボトルのお茶をゴクゴクと飲み、半分位のところで、T君に返してよこした。
「いや、いいよ。全部、あげるから」 と言ったが、自衛隊員は、 「本当にありがとうございました」 と言って、脇の階段を登って行った。
(飲みかけのお茶を返されても困る) と思いながら、T君も急いであとを追った。
するとその階段の途中から、椅子やダンボール箱などが積まれていて、先に進むことが出来なかったそうだ。
(どこに行ってしまったのか) と不思議に思いながら、とぼとぼと部屋に戻り、ふと、手元に残されたペットボトルを見ると、お茶が、全く減っていなかった。
そして、蓋を回すと、ペキペキッと音がして、未開封だったことが分かった。
(先ほど、間違いなく蓋を開け、自衛隊員に渡して、あんなに美味しそうに飲んだのに、夢でも見ていたのだろうか) と思って、そのお茶を飲んだそうだが、特に味の変化は無かったとのこと。
もちろん腐ったりということも無かったそうだ。
翌年の夏、T君がたまたま家で、テレビを見ていた時のことである。
その時点で、NHKの戦後六十年の特別番組だったが、昔の戦争の白黒の映像がデジタル処理されて、カラー映像として放送されていた。
第一部が、神風特攻隊の話で、第二部が、もう一つの特攻隊ということで、人間魚雷の「回天」の話だった。
「回天」とは、脱出装置のない魚雷のことで、乗務員として出撃すれば、ほぼ死が避けられない。
T君は、酷い話だと思って胸を痛めながら見ていたのだが、映像の中で、頭に「大日本帝国」のはちまきを巻き、日本刀を持って桟橋を渡る若い男性が、潜水艦に乗り込む直前に振り返って、こちらを向いた。
そこで、画面が切り替わって、その青年の顔のアップが出た時、T君は、一瞬で川湯温泉に現れた自衛隊員を思い出した。
青年の顔の頬に、特徴的なホクロがあったのだ。
T君は、 「あっ、この人知ってる。あの時のお茶をあげた自衛隊員だ。軍人さんだったんだな」 と認識したそうだ。
それからだという。夢の中にその軍人が現れて、まるで友人であるかのように話しかけてくる。
「回天」の特攻の悲惨さや人の命の尊さを熱く語って、 「あなたは、このことをみんなに伝える義務がある。それがあなたの使命です」 と言われたそうである。
T君は、 (人の夢に勝手に出てきて、なんということを言うんだ) と思いつつも、自分は教師である。
この話は、生徒達に伝えていかなければいけないと思い、それから、毎年夏休み前の最後の授業で、必ずこの話をするとのこと。
お盆や終戦記念日の前に関連付けて話しているそうだ。今年の七月で、話した学生の数が1000人を越えたのだという。
ところで、その軍人さんが、何故、北海道の川湯温泉に現れたのか、疑問に思って考えてみた。
そこの出身だったのか、または、T君に憑いてきたのか、再度、T君に確認してみた。
「いやぁ、分からない。自分も出張でたまたま訪れた場所だし、縁もゆかりもない所だから、なんであそこにいたんだろうね」 と、不思議そうに答えた。
そして、 「でもさ、それからなんだよ。俺、幽霊見えるようになってさ。今度、会ったらまた話してあげるよ」 とのことだった。
