これは、私が41歳の頃の話です。
私は、岡山の大学病院に入院しました。
性同一性障害で性別適合手術(昔で言う性転換手術)を受けての入院でした。
手術は10時間にもおよび、男性用の病室で麻酔から目が覚めました。
性同一性障害での手術では、患者の性別がナーバスな問題になるので、
二週間後の退院まではベッドサイドのカーテンはいつも閉じられていました。
カーテンの向こうでは、他に入院されているおじ様がお2人おられるらしく、
チューブだらけで寝返りも打てずテレビも見られない私は、
いつも明るいお2人のおじ様ダジャレトークしか楽しみがありませんでした。
どうやらお2人は、泌尿器が悪いらしくいつもその話題で盛り上がるのですが、
元男性の身体を持っていた私としては「分かる分かる」と時にはうなずき、
時には笑ってしまったりしていました。
毎日、看護師さんが入れ替わり立ち代わりで私の様子を見に来たり
検温に来たり点滴を変えに来てくださりました。
その他には広島の家族も遠いので見舞い客も来ず、インターンの男性医師の方や
同じくインターンの女医さんが会話相手をしてくれたりしてくださいました。
「毎日大変ですね。いつ帰ったり寝たりしてるんですか?」
とその女医さんに尋ねると
「インターンは、帰れても2~3か月に一度だし、ずっと医局で寝泊まりしてるのよ」
と疲れた顔で笑っていました。
やっとチューブが外れ、歩く練習の許可が下りたので入院してから初めてトイレに行きました。
カーテンから出ると一緒に入院していたはずのお2人がいません。
布団さえありませんでした。
トイレに行ってからナースステーションでお2人の事を聞いたら、
その部屋ではずっと木本さんは、1人だったと言われました。
怪異慣れしている私は、また怪異かと思い今日もお2人の声が聞こえるかな?程度に軽く考えてしまい
「そう言えばインターンの女医さんも大変ですね」と話題を変えました。
すると看護師さんは、首を傾げて言いました。
「木本さんの担当の方は、男性の方だけですよ」と……
一緒に入院されていたお2人のおじ様だけではなく、女医さんまでいなかったのです。
大学病院と言う所ではこの様な事が多いのかもと、今でも思っています。