筆箱

小学校1年の時の事。

入学したばかりで真新しい教科書や文房具類が嬉しくて仕方が無かった頃の事です。

 

いつものように学校から帰ってきて近所の幼馴染Eちゃんの家に遊びに行きました。

ひとしきり遊んでから「明日の学校の用意をしてあげる!」と私は自分から言いだし、

Eちゃんのランドセルの中に明日の教科書類と真新しい筆箱を入れて蓋をしてから自分の家へ帰りました。

 

翌朝、Eちゃんのお母さんが駆け込んできて「Eの筆箱知らない?」と聞いてくるのです。

教科書と一緒にランドセルに入れたと言うとそれがどこにも無いと言うのです。

私が帰ってからEちゃんはランドセルを開けていないとの事で私は何が何だか分からなくなってしまいました。

「昨日ちゃんとランドセルに入れたんだよ」

と両親に説明しても信じて貰えず、そのまま学校へ行くことに。

新しい筆箱が無くなってしまってすっかりしょげているEちゃん。

私達の家から小学校まではおよそ1キロの道のり。

 

Eちゃんとはクラスも同じなのでそのまま教室へ入り、

先生が教室へ来るやいなや私とEちゃんは皆の前に立たされ、

既に筆箱の事情を知っていたらしい先生が

Eちゃんの筆箱が無くなってしまいました」

と説明。

 

不安感からかEちゃんは泣き出してしまう始末。

その直後私の母が新しい筆箱を手に教室に飛び込んできました。

私が無くしてしまったと信じ込んでいた母は代用品を持ってきたのです。

しぶしぶそれを受け取り自分の席に着いたEちゃん、机の中に手を入れるやいなや「あった!!」と叫ぶ。

見ればそれは紛れもなくEちゃんの筆箱だったのです。

 

前日私が確かにランドセルに入れた筆箱が机の中にあったのです。

「な~んだ、忘れて行っちゃったんだね」

と誰もが思い、安堵の空気一色の中、私一人が全く腑に落ちないまま立ち尽くしていました。

 

幼い頃からシッカリ者だったEちゃんは忘れ物ひとつしない子だったのです。

「どうして筆箱だけが机の中に?」

という思いのまま月日は流れ、後日この事をEちゃんに言っても

そんな事あったっけ?」

といった感じで殆ど覚えていないようでした。

 

あの日私は確かに教科書と一緒にランドセルの中に筆箱を入れたのです。

どうして消えてしまったのでしょう?

未だに解せない出来事です。

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