祖母

数年前に、祖母が癌で亡くなった。
その時に起こった不思議な話だ。

私は、家庭の事情から祖母に育てられた。
数年前に祖母が末期癌である事がわかり、辛い闘病生活の中、親戚や家族、医者の間で、祖母の最期は病室ではなく家で看取ろうということになっていた。

数日経って医者から、残念ながら死期が近いとの判断があり、急いで祖母を家に戻すことにした。
住み慣れた家に帰ってきた祖母の表情は心なしか穏やかで、家族みんなで
「一日でも長く家で過ごせるといいね」
と話していたのだが、その願いは叶わず、祖母は翌日の朝に亡くなった。

祖母がなくなる直前、祖母が寝ているベッドの部屋の隣の部屋で、私と親戚で朝食の準備を終え話をしながらご飯を食べていたのだが、ふと急に、なんとも言えないピリッとした感覚を背後に感じた。

一瞬、完全な無音状態で体に電気が走ったような、そんな感覚だった。

その瞬間、これはなにかある、と咄嗟に感じたとともに私はとても嫌な予感がし、
おばあちゃん!」
と祖母のベッドに駆け寄ったのだが、もう祖母は息をしていなかった。

そこからお葬式までは、泣いてばかりでもう何もする気が起きず、その姿を見ていた親戚に怒られたりした。
そして、お葬式が執り行われたのだが、そこでも不思議なことは起きた。お坊さんが読経を始めてしばらくが経った時だった。

祖母が入っている棺の、丁度頭の部分にモヤモヤッと蜃気楼のようなものがあった。

私は最初、
「ロウソクの火?それとも風で垂れ幕が揺れてるだけ?
と思ったのだが、そこにはロウソクのもお線香もなく、窓も全て締め切られていたので風が入ってくることは無かった。

私は、そのモヤモヤをただ見つめることしかでき無かったのだが、ふとあることに気がついた。
「あれ、人型だ」
そのモヤモヤは人の形をしていた。

私は、その人型はもしかして祖母ではないかと思い、「おばあちゃんだね」と心の中で言った。
するとその人型はスーッと消えていったのだった。

お葬式が終わり、そのことを家族に言うも「いや、わからなかった」とのこと。
その後、親戚や祖母と親しかった方達と家で食事をとっていると、叔父が私の妹に外へゴミ捨てを頼んだ。

しばらく経ってゴミ捨てを終えた妹が家の中に入ってきたのだが、妹の後ろにピッタリとオレンジの服を着た人がついてきていた。
誰かと一緒にゴミを捨ててきたのか、くらいにしか思っていなかったのだが、その瞬間ゾクッとした。
お葬式である。
誰もそんな派手な服を着ていない。

私は妹に「誰とゴミ捨てをしてきたの?」と聞いた。

すると妹が、
「え?一人だけど。姉ちゃん怖いこと言わないでよ!」と言われた。

それからしばらくは何も起きなかったのだが、祖母が亡くなって49日が経とうとしていた時だった。
私は家で一人、昼寝をしていたのだが、夢に祖母が現れてとてもニコニコと笑顔でとても楽しそうにいろんな話をしてくれた。

話の内容は覚えていないのだが、確実に覚えているのは、陽だまりに包まれたようなとても暖かい場所で、祖母がはしごに登って何か作業をしながら私と会話をしていたこと
とても懐かしい感じがして、とても嬉しい楽しいという感情に包まれたこと。

私は目が覚めてから、家族にこの話をすべきか迷ったが、これ以上気味悪がられるのはいやだったのでこの話は黙っておくことにした。

そして49日の日、また親戚一同で集まり、お坊さんに読経してもらい、その後皆で食事をとっていた時だった。
親戚の一人が、
「この前、私ちゃんのおばあちゃんが夢で現れて、俺のことすごく叱ってきたんだよ。しっかり働けって」
その発言を皮切りに、
「あ、うちにも来たよ」
と何人かが祖母が夢に現れたと言い始めた。

「多分、最後にみんなの顔を見に来たんだよ」
叔母が言った。

私はなぜか、自分の夢の話は秘密にしておこうと思った。
何というか、誰にも見せたくない宝物のような気がして、この夢は自分のものだけにしておこうと思った。

それからは、たまに祖母が夢に現れ、お素麺が食べたいとか、そばが食べたいとか言ってくる。
祖母らしいな、と思いながら夢を見るたびに懐かしい気持ちをかんじている。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる