OA機器の警告

ちょうど私があるデザイン事務所に勤務していた時は、
アナログからデジタルに変わる移行期だった。
マックがデザイン現場に投入され始めとこれで、これが意外な弊害を生んだ。
デザインスクールなどでマックを覚えた若い奴らが、即戦力として流入、
一見すると作業効率は上がったように見えた。
しかし実際は、確かにそこそこ格好がつくものは若手でもできるが、小手先だけだ。
裏を返せば、安い手間仕事はできても
専門知識や常識に欠けるため、きちんとした仕事は全くできない。
安い手間仕事も、すぐに底が割れてお客に飽きられる、
結局はマックを独習したベテランたちが尻脱ぎをすることになり、
多忙な割に生産効率が上がらない、という悪循環。
特に小規模な事務所では、これが足かせとなって、労働環境の悪化を招いた。
そんなある日のことである、深夜残業が常套化し、
みんなが疲弊しきったころ、あるベテランデザイナーが凄絶内命を上げた、
普段は温厚でいくら多忙でも悲鳴を上げることもなく、
とにかくワーカホリックの私たちですから
心配するほど負担がかかっていた人間。

年齢はもう40台に差し掛かろうというところで、
持ち前の向上心からデジタルワークもいち早くマスター。
自分が抱えていたメインクライアントの仕事に加え、
若手スタッフのしりぬぐいにも駆り出されほとんどまにっく状態に陥っていた。
普段は冷静沈着な男が、コピー機の前で蒼白になり、
手は震え、言葉も出ない様子。
驚いてすっ飛んでいった私たちの目に入ったのは…今でもぞっとする。
なんと勝手にさづしているコピー機から吐き出されているのは、彼も顔だった。
もちろんそんなものをコピーする酔狂な豆をするわけもない。
慌ててコピーを定位しようとするが止まらない。
百枚近くコピーが流れたときにようやく停止した。
怖ろしかったのはこれからだ。
出てきたものをとりあえず処分しようとひっつかんでみたら、
ンと最初は彼も普通な顔だ。
しかし枚数を重ねていくたびに顔が代わっている。
徐々にやつれて精機がなくなっていく顔・顔・顔…
まだ当時は珍しかったカラーコピー機なのだが、
顔面も徐々にどす黒く色し、く青ざめて行っているのだ、
死後はついに、目までと閉じて思想にしか見えないコピーが残された。
もうその夜は家に帰らせることもできず。
慌てて近所のホテルに避難させたが動揺は収まらない。
そして数日後、彼は脳内出血で入院することになった。

幸い医者も驚く回復ぶりで早々に職場復帰は果たしたものの、
もう絶対に無理はさせられない体になった。
彼の奥さんに話を聞いてみると、彼が意識を回復する間に、
大切にしてい愛犬が急死したという。

ここから先は私自身の話、当時私も月残業時間が300時間を超えるという無茶苦茶なオーバーペース。
それでいて給料は全く上がらないという超ブラック企業だった。
本当に追われまくっている知と、人間はランナーズハイのような状況に陥る。
そしてそれを過ぎると言わずもがな、である。ぶっ倒れる。
私が倒れたきっかけはワープロの反乱だった。

深夜、必死で書き飛ばしていると,ワープロ画面がおかしい。
気が付けば私も失神状態だったんだろう。
ふと気が付いてワープロの画面を見てぎゃあっと悲鳴上げた。
ディスプレイに悪寒できるのは、フォントも何も無視した
「フフフフフフ』「ゲラげらげら」という笑い声、
書いていた原稿はどこにもなく、ただただ続く嘲笑の渦…。
限界と思った私は知り合いの医者に無理を言い、
深夜にかかわらず診察を受けた。結果は,なんと老衰に近いという。
まだ年齢は30そこそこ。内臓がすべて機能不全に近い状態になっていた。

即入院で数週間、点滴だけの生活を送り、職場復帰できたのは2ヵ月後だった。
あのOA機器の反乱は、私たちの危険を察知したものか、
それともあまりに駆使されるOA機器の反乱だったのか。

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