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従姉妹の旦那

私は実家に来ていた。
明日は新婚の従姉妹夫婦が挨拶に来るから。

従姉妹のA子は母の妹の長女。

三十代後半で 独身だったから心配したけれど、 結婚の報告を聞いて本当に嬉しかった。
実家ではみんな早く寝てしまう。 部屋にはテレビもない。私も早く寝た。

気が付くとそこは旅館だった。
私は誰もいないエレベーターホールの壁に、 体育座りで寄りかかっている。

二台並んだエレベーターの真ん中。
座り込んだ頭の上に、車いす用の 階数ボタンがある。
左側には大きな窓があり、外が白々と明るくなりかけていた。
右側の廊下には客室の扉が並ならんでいた。
廊下の向こうから、着崩れた浴衣の男の人が歩いて来る。

しきりに肩を気にしていた。

首にはタオルが掛けてある。
『朝風呂入るのかな?』そう思った。

その後ろから、タイトミニスカートをはいた女の人がついて来る。
腰まであるソパージュ。長い髪で覆われて顔は見えない。
『・・・なんか生臭い。ドブ?臭い。 これって・・何だろう?』
男の人は私の目の前まで来ると普通に、 私の頭の上にある1階のボタンを押した。

ハッとした。急に怖くなった。

だっておかしい。私に見向きもしないから。
『この人、私が見えてないんだ・・・・・』
男の人は、座り込む私に全く気がつかない。後ろにいる女の人にも、気付いている様子がない。
『この男の人には、私も後ろの女の人も見え ていないんじゃないか?』
それに、ドブ臭いのは男の人じゃない。 後ろの女の人・・・・・

私はぎゅっと膝を抱きよせ、体を縮めて 息を殺した。

見てる・・・見えてるんだ。
目の前に、長いソパージュの髪が、ゆっくり覆いかぶさって来た。
ドブ臭い髪が、舞台の緞帳の様に目の前に下りて来る。
顔が見えそうになった時、口と鼻を押さえ 目をギュッと閉じた。
『助けて』と体を強張らせ歯を食いしばったその瞬間、目が覚めた。

「はぁはぁ・・夢で良かった。良かった。 夢、夢、夢、夢・・・」
と言い聞かせる様につぶやき、布団をにぎり絞めた。
夢の内容が生生しすぎて、心臓が バクバクしている。気持ち悪い。
あの女の人、男の人の後から歩いて 来たはずなのに、足が動いてなかった。
髪に緑色の藻みたいのがついてて、ドブ臭かった。

私は、なんだか不安で明りが恋しくなり、枕元のライトを点けた・・・・・点かない。
カチカチ試してみたけど全然つかない。
「なんで?」
急に怖くなって立ち上がり、 部屋の電気を点けた・・・点かない。
パチパチ試したけど、やっぱり点かない。
「なんでよ!なんなのよ!」
怖くて怖くて、逃げだしたい一心で部屋のドアを乱暴に開け、廊下の電気の スイッチに飛びついた。
パッと辺りが明るくなり、うれしかった。
目を見開いて「点いた。点いた。点いた。」
ゼエゼエと同じ言葉を繰り返し言い聞かせながら、へたりこんだ。

まだ心臓がバクバクしていた。
なんか変だ・・・・・生ゴミ? 気持ち悪い・・・・ 臭い。
腐った・・・・・ドブ、ドブだ! バッと振り向くと歯を剥き出しにしたズブ濡れの女が上から襲いかかって来た。
とっさに女の両手を押さえた。 生臭いドブの臭いが鼻をついた。目の前の女は目玉がなくミイラの様だった。
それに下半身がない。肋骨が白濁している。

長いソパージュの腐り落ちかけた髪が 水中で揺れる様に空中でユラユラ浮遊していた。
骸骨の様な顔から、長く伸びた歯を剥き出し口を大きく開けて、爬虫類の様に叫びながら顔を突き出し、叫ぶ。

《音の振動が》風の様に打ちつけて来る。
骨だけみたいな手を押さえ、上から のしかかる様に迫って来る女を必死で押し返した。
噛みつかれる!顔を喰われる! 皮膚をカジリ取られる!

そんな恐怖で気が狂いそうだった。
『いやだ!死にたくない!助けて神様、 屋敷神様、仏様』と心での中で叫んだ。
「た・・す・・・・・・けて」
やっと 声がしぼりでた。

その時、自宅の屋敷神様と山寺のある西の方角から 『【オーーーーーーー】』と、声の様な、鼓の乾いた様な音が聞こえ、 急に強い風が吹き出した。
掃除機に吸こまれる様に、女の体が窓の方向になびきだし、動揺しているのが解った。
風はどんどん強くなり、私に襲いかかって いた女は、窓を気にする様に横を向いた。
と、同時に 『ギャァァーーーーーーー』と奇声を上げながら西の方角に飛んで消えた。

茫然としてへたり込んだ・・・

目を見開いて ゼエゼエと肩で息をした。

その瞬間、目が覚めた。
心臓がバクバクしている。暗闇の中、大きく目を見開いて、私は起きた。
確かめる様に枕元のライトを点けた・・・・点かない
ゆっくり立ち上がり、 部屋の電気を点けた・・・点かない。
やっぱり・・・・・逃げだせてない。逃げきれてない。あの女が廊下に居る様な気がした。
自分が何処の世界に居るのか夢か現実か、わからなくなって怖かった。

でも、行かなくちゃいけない気がした。ここから出なくちゃいけない。
「屋敷神様、山寺の御本尊様、お助け下さい」
西に向かい手を合わせ、お参りをした。

もう一度、あの女と会うとなると腹を据え廊下に出た。暗く冷たい廊下の電気を覚悟をしてつけた。
電気がバチバチっと点滅し、パッとついた。と同時に 『ゴオーーーーーー』と強い風が暴風の様に吹き込んできた。
鍵をかけたハズの窓が大きく開いており廊下の踊り場に、悲鳴のような音を上げながら風が唸っていた。

女はいなかった。
私はその場にくずれた。正直、現実だと確信するのに時間がかかった。
眠るのが怖くて、朝日を見てから眠た。

翌日の昼前、母に「何時まで寝てる気だ! A子が来るぞ!」と、起こされた。
母と一緒に来客の準備をしながら、 現実をかみしめた。
家のチャイムが鳴り、従姉妹夫婦が到着した。
私は従姉妹の旦那さんの顔を見て凍りついた・・・・

だって、昨日の・・・・旦那さんは笑顔が素敵で朗らかな良い人だった。
ふと、昨日宿泊した宿の話になった。
有名な○○湖の近くの宿に泊まったそうだ。

旦那さんが言った。
「昨日の夜、A子がうなされまして手を握って『何か居るなら俺の方に来い!』って言ったんですよ。

守らなくちゃ!と思いましてね」と、男の人は照れながら笑った。

・・・・・・・・・・ 長文、読んで頂いてありがとうございます。
この時、従姉妹の旦那は生身の人間。
私は生霊、相手は死霊。霊同士の私達二人は お互いの姿が見えた様です。

朗読: 繭狐の怖い話部屋

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