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山にむやみに入るな

私のお知り合いに、上原さんという方がいらっしゃいます。

皆から上さん、と呼ばれて慕われてらっしゃる方で怖いもの知らずという言葉が良く似合う兄貴分の様な存在です。

 

上原さんにはご自身に全く霊感というものはなく、幽霊なんかもあまり信じないタイプだそうで。

音楽活動をされているせいもあるのかストーカー被害を多数受けてらっしゃり、生きた人間の方が怖いと言うくらいの方です。

 

しかし私というのが小さい頃から怪談好きの両親に育てられ、

ほんとにあった怖い話や怪談新耳袋なんかを見て育った根っからの「怪談好き」で御座いまして。

 

期待半分に上さんに怖い話ありませんか、と聞いてみると「ちゃんとした怖い話と呼べるか分からないけれど」とこんな話を話してくれました。

 

 

上さんの実家、というのは北関東に位置しており、結構名の知れた地主さんだったそうで。

政治家さんなどを輩出するような名家として地元では知られていたそうです。

 

当然、そうなれば持っている土地も広く、地元の山はほとんど上さんのお家のものだったそうです。

昔からの集落ということもあり、当時山を切り開いた遺跡、なんてものも数え切れないほどあったそうです。

その中に、明治~大正頃に作られた小さなダムと、それを作るにあたって亡くなってしまった方達のための遺跡というものがあったそうです。

 

当然、その方々を祀るための小さな祠も。

 

今の技術ならまだしも昔の技術ということもあり山を切り開いて無理矢理堰き止めてダムを作ろう、

なんてことをしたら当然危ないでしょうし亡くなってしまった方も当然数多く居たわけです。

そんなダムというのが上原さんのお家の裏山にございまして。

 

当時中学生だった上原さんはお友達と3人で家でゲームをしていたそうです。

仮にその2人をAさん、Bさんとします。

 

季節が夏と言うこともあったのか、Bさんが「肝試ししよう」と言い出し、その裏山に入って祠を見に行く、ということになったそうです。

田舎、ということもありましたし当然街頭なんてものはない山の中を懐中電灯をひとつ持ち、3人で夏のムシムシとする山を登っていきました。

 

最初こそ下らない話をしたり虫が出た、とか笑いながら山を登られていたそうですが。

家の敷地と祠の真ん中あたりに来た頃、Aさんが「気分が悪い」と言ってきたそうですが「飯食いすぎたわ」と奥の方に入っていってしまったそうです。

上原さんはBさんをAさんを追い、更に山に入っていくといきなりBさんが上さんの肩を掴み

だめだ、これ以上は行ってはいけない。帰ろう」と言ってきたそうです。

 

しかし上さんはAさんが怖がってるものだと思い、

なにビビってんだよ、お前が言い出したんだから行こうぜ」

とBさんの手を引いて歩いていると、前を歩くAさんが異様に歩くことが遅いのに気が付きました。

 

そんなAさんを見て上原さんは体調でも悪いのか、と思っていましたが遂にAさんの足が止まってしまいました。

上原さんがAさんに追いつくと、Aさんも「これ以上はだめだ、もう帰ろう」と言い出したそうです。

 

そこで素直に帰ればいいのに、上原さんは2人が怖いから帰りたがってるんだと思い、

からかいながらAさんの腕を引いたとき、がくん、とふたりがその場で崩れ落ちて痙攣しはじめました。

 

いくら当時から怖いもの知らず、とは言っていても流石に子供ながらにそれを見てパニックになった上原さんですが、

恐ろしいことにふたりは顔から液体という液体を垂れ流しながら「ああああ……」とうわ言のように言っていたそうです。

 

上原さんはパニックになりながらも必死で2人を抱えたのですが、その途中、Aさんが

「やめてくれ、やめてくれ、くらい、くらい」と涎を垂らしながら呟きはじめたそうです。

 

上原さんが聞き返すとAさんは急に

しんでないしんでないしんでないしんでないしんでないしんでないしんでないしんでない

しんでないしんでないしんでないしんでないしんでないしんでないしんでない」

と人が変わったかのように言葉をぶつぶつと繰り返しました。

 

そして、BさんまでもAさんがしんでない、と言った途端犬の鳴き真似をしたり、唸ったりしだしたそうです。

流石に上原さんはそれを見てゾッとしだし、2人の身体が傷付くのも構わず全力でふたりを抱えたまま山を走ってくだっていきました。

 

やっと家の灯りが見える距離に来たころ。

Aさんが急に叫んだと思うと急に上原さんの首を絞めてきました。

上原さんはなんとか家の広い敷地に入った瞬間、ふたりは急に気絶してしまいました。

その後、念の為病院に連れていきましたが何一つ異常はなかったといいます

 

しかし、その2人の足には犬に噛まれたような痣と馬鹿みたいな力で握り締められたであろう手形がくっきりと残っていたそうです。

その後AさんとBさんは何事も無かったかのように生活していますが、その日のことは全く覚えていない、と言います。

 

上原さんは「この話をじーさんばーさんにしたら祟りだとか言って、祠の向かいにある石碑を掃除させられたけど、俺一人で入っても何も無かったよ」

と笑っていましたが、私にはひとつどうしても疑問に思ってしまうことがあるのです。

Aさんの言っていた「しんでない」という言葉は一体、何を意味しているのでしょうか。

ダムによって亡くなられてしまった方が自身が死んでいることに気付いていないのか、それとも気づいてはいるけれど認められていないのか。

私には知る由もありません。

 

山に下手に入るなよ、と教訓として上原さんはこの話をしてくださいましたが最後に一言、私は上原さんが言った言葉が私には忘れられないのです。

 

「特にお前みたいな若いのは気を付けろよ。

そういう歴史を知ると可哀想だとか、変わってあげたいだとか思うだろうが、絶対にだめだ。

……下手に同情すると、入り込まれるぞ」

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