その娘が生まれた時には、彼女の家には1匹の猫がいた。
とても綺麗なメスの三毛猫だった。
若かったその猫は、その娘と共に育った。
彼女たちは、とても仲が良く、娘は学校から帰ると、
その猫もそれを嫌がるでもなく、いつも娘の頬を舐め返していた。
娘が病気の時、三毛猫は彼女から離れず、
やがて別れの時が来た。
高校生になったばかりの娘は、
そんな娘が不在の時に、三毛は天国に旅立った。
まるで己の死する姿を見せたくないかのように……
帰ってきた娘は、老衰だった事は理解するも、
一晩、娘は、亡骸と共に過ごした。
そして次の日は、
あれから数年。
娘は大学に入学した。
その初夏の日は、朝から大雨だった。
山間にある大学では、
娘も帰り支度をして、豪雨の中駅に向かった。
その時、豪雨の爆音の中で猫の声がした。
娘には、その鳴き声に聞き覚えがあった。
ふと、そちらを向く。
そこにいたのは、死んだはずのあの三毛だった。
ただ単にそっくりだっただけなのかもしれない。
だが、娘はあの猫だと思った。
その時だった。
轟音と共に、
慌てて振り返る娘。あそこにあのまま立っていたら……
背筋に冷たい物を感じながら、娘は三毛の方を再度見た。
三毛猫は、もういなかったが、娘の心は温かくなっていた。
今でもその娘は、愛猫が助けてくれたと信じている。