肉食虫

それは… 私の親友が、高校を辞めてバイク屋へ就職するのを機に、
独り暮らしを始める際に起こった不幸な出来事でした…。

当然、親御さんは猛反対!
両親からの援助を当てに出来ない彼は、それまでバイトで貯めた、
僅かな資金での引越しを余儀なくされていました。

毎日毎日、不動産屋巡りの日々を繰り返す彼には、
早く引越しを済ませないといけない訳がありました。

そうです!  若気の致りと申しますか、彼の相方さんのお腹には、新しい命が芽吹いていた訳ですな。 お相手の方も高校生。
先方の両親も猛反対!  これではマズイ!

このままでは堕胎させられてしまいかねない…。
そう思った彼は、流石というかなんというか、逃げ出すどころか、
彼女の両親に認めて貰う為、就職し独り暮しを決心したのでありました。

まぁ、その話に感動いたしまして…、
私含め友人一同も、なけなしのお金をカンパさせて戴き、無事新居が決定いたしました。

引越し当日、引越し代も馬鹿にならないという事で、
友人一同総動員でお手伝いに伺ったところ…。

まぁ、あの値段なら致し方なしというか…、
彼の新居は今にも崩れ堕ちそうそうな、アパートの2階でございました。

中に入ると案外小綺麗で、一応ふた間あり、大家さんの人柄が伺い知れる、
外観はさておき、なかなか良い物件でした。
引越しは無事済みまして、その日は友人一同その部屋で飲み明かし、
翌日から彼の独り暮しは、無事スタートいたしました。

早く彼女を迎えに行きたい一心で、彼は昼間のバイク屋で一生懸命働き出して…、
およそ二週間が過ぎようとした頃、彼から連絡が来ました…。

『ちょっと泊まりに来ないか?』
まぁ、一人淋しい男住まい、ホームシックにでもかかったのかと思い、
その夜バイトが終わった私は、彼のアパートとへ差し入れと共に向かいました。

久しぶりぶりに見る彼は、何やら目にクマを造り、幾分痩せたように見えました。
「どないしたん?…その顔」
『ああ…ちょっとな…』
とりあえず中に入り彼の話を聞いてみると、
夜中にガサガサと物音が煩くて、眠れていないという…。

どこからするのかという私の問いに、床下から音がして眠れないとの事…。
「下の階の住人に文句は言ったのか?」
というと、大家さんへ彼が苦情を言ったら、下の階は未入居だという…。

その時、私が床下へ耳をひっつけてみても、物音一つしない…。
彼の話では、毎朝明け方に音がし始めるらしい。
彼は疲れきり、幽霊だったらどうしょう…など、
その厳つい風貌からは、想像出来ないような弱音を吐いておりました。

『お前の彼女に見て貰えないか?』
などと訴えてくる始末…、呆れた私は、とりあえず二人で飯を喰い、
彼を寝かせる事にいたしました…。
私も朝から学校の為、横になっていると…。
耳元から…ガサガサ ガサガサガサガサ
ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ
けたたましい音が響き出し、布団から跳ね起きました。

彼は既に目覚めて部屋の隅で固まり、震えていました。
私は、とりあえず音の出所を捜す為、耳を澄まし壁や床に、耳を這わせておりました。
その間も…
ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ
やはり音は床下から聞こえてきます…。で私は…
「やっぱり下だ!浮浪者か何かが 入り込んでるんじゃねぇか?」
て事になり、二人手に手に武器を持ち、明け方の静かな階下へ出陣いたしました。

真下の部屋まで辿り着き、ドアを確認しましたが、やはり鍵は掛かっている模様。
アパートの裏手の植え込みへと、回り込み窓側を確認したところ、窓ガラスの一部が割れ、手を入れれば内鍵が外れる感じに、なっていました。

窓から見ると中は真っ暗で、人の気配は無く、
やはり大家さんの言うとおり、誰もいない感じ…。
でも、うやむやで済ませては、来た意味がないので侵入…。

中を探索するが懐中電灯など、持って来ておらず、
ゆっくりゆっくり中へ足を進めました…。

とりあえず玄関先まで到着し、トイレの中等を確認しましたが、何もありません。
部屋へ戻り、押し入れを確認しようとしたとき…。

ドンっ!
スゴイ音と共に天井が落ちてきました…。

それと共に
ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ
けたたましい音がし、振り返ると、黒い塊がうごめいていました…
「ぎゃ~~~~ぁ! 」
二人して大声を上げ、玄関先へ走って逃げるが、
その黒い塊の一部も私達を追い掛けて来ます。

鍵を開ける手が震えて、なかなか上手くいかず、
もう目の前という所まで黒い塊が近付いた時、やっとドアが開きました。

ドアが開くと転げるように、飛び出した私達と共に、黒い塊も外へ…。
月明かりに照らされた、その正体を見た瞬間、再度私達は大声で叫びました…
「ぎやゃやあぁあ~!  ゴキブリィイ!」
目の前には想像を絶するゴキブリの数…。

その後が大変でした…。

私達の悲鳴を聞き付けた 御近所の方々が一斉に起きてこられまして、
しまいにはパトカーまで…。 まぁ、パトカーはちょうどよかったのですが…。

一人の警官に事情を話してる間に、もう一人の警官が部屋を確認してみると、
中から腐乱死体が発見されました。

その後、何台もパトカーがやってきまして、私達二人も仲良く署へ連行され、
詳しく事情を聞かれましたとさ…

警官の話では、やはり浮浪者が侵入し、見つかるのを恐れた為、
なんらかのかたちで、押し入れから天井裏へ昇り、そのまま餓死したようです。
遺体はゴキブリや鼠に食い荒らされ、無惨な状態だったそうです…

ゴキブリは本来雑食で、海外を含めると4000種も発見されており、
海外では眠っている間に指や爪を、食われたりするという…、
中にはゴキブリアレルギーというのも存在するそうです。

あと、ゴキブリの活動時間は以外に短く、明け方一時間と、暮れ時三時間ぐらいが、主な活動時間という事です…。
今回 霊感があれば…予期出来た…かも 知れませんね…。
まぁ お約束って事で これであなたも霊感欲しくなりましたか?
すきまをこれからも覗いていただけますか?

朗読: 怪談朗読と午前二時

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