武装心霊探訪その2

今までたくさんの心霊体験をしてきました。
例えば、家の玄関の戸が開く音がして、出てみたらそもそも戸なんて開いてない。
もちろん誰もいない。

時間はお昼過ぎだったと思います。
心中穏やかにはいられず、家族に話したところ、次の日には親族で同じ体験。

時間も昼過ぎ。
音はするのに戸が開いてないし、誰もいない。
流石におかしいだろうと、お寺の坊さんに相談。
家に招いたら即座に一言、「霊道ですな」と。

私達はよく白い煙のようなものを視界の端で見るのですが、
幽霊って言っても別に人間だけじゃありませんからね。
そういうものをまとめて「霊魂」と呼ぶのだそうです。
大概は清めと経典で鎮めることが出来るらしいのですが、
経験上、それに当てはまらない者達がいます。

この世に強い未練や恨みを持つ者達。
そう、悪霊です。
言うこと聞かないのなら、力で押さえ付けるしかないのです。
それが例え、悲しい運命を辿った連中であっても…。

営業職一年半が過ぎたころ、私は仕事終わりにある公園に来ていました。
もちろん好きで来たのではありません。
自宅に帰る途中、設定したはずのカーナビが、
突然あらぬ方向へとナビをし始めたのです。

ここは国道。
大きな幹線道路で、道なりに走っていれば黙っていても家に着くんです。
ところがナビが示した方向は、狭い脇道へと入っていくルートでした。
またか…、という気分になります。

大通りから脇へ反れ、一旦停車。
すでに頭がボーッとして、視界にフィルターがかかっています。例のあれです。
車から降り、後部座席に置いてあるビジネスバッグからエアーガンを取り出し、本体にライトを装着。ストロボフラッシュの確認をしてから安全キャップを取り外す。
スーツに隠してあるホルスターに銃を収めて、ふと気付く。
さっきから、やけに体か熱い。
季節は秋だし、風邪なんか引いてない。
だけど、ジンジンとした火照りを感じる。

…まさか。
道の両側には一軒家が並んでいるが、まだ六時だというのに明かり一つ付いていない。
空気が張り詰め、異様な空気の中に若干の焦げ臭さ。
どうやらビンゴらしい。この公園、人が死んでる。
多分焼身自殺。
…この臭いは灯油か?いや、考えても仕方ない。
私は呼ばれているのだ。
死霊に興味はないが、売られたケンカは買うのが私のやり方。

そろそろと公園内に侵入する。
ここは大きな自然公園。
観光名所ではあるが心霊スポットという裏の一面もある。
恐らく元凶はこいつだな。
ついでに余計な奴らも集まってるようで、少々厄介ではある。
辺りを見回すと、公園内は濃い霧に包まれ、なんとも異様な雰囲気を漂わせている。
普通ならここで引き返さなければダメだ。
有利なのはあちらさんだからだ。
私は敵地のど真ん中に立っている。

カサッと音がする。
右前方に目をやると、そこには少女が立っていた。
ボサボサの黒髪にボロボロの服。
視界にフィルターがかかっているため、色はハッキリしない。
少女と目が合う。少女には…瞳がなかった。
口を半開きにし、こちらに少しずつ近付いてくる。
とっさに銃を構えるが、撃つ気はない。
彼女には殺気を感じられないからだ。
撃つべき相手は他にいる。そう思った。
引き金から指を外し、銃口を下げる。…少女は笑みをこぼした。

銃がおもちゃかどうかなんて関係ない。
相手は死んでいるのだ。
なぜ分かるかって?足首から下がないからさ。
私はどうやら彼女に呼ばれたらしい。
助けて…と頭の中で聞こえていたから。
しかし、助ける方法もなければそんな気にもならない。
ひどい奴?違う。関わってはいけないのだ。
この少女が辿った人生、死に様、悲しみや苦しみ。
そんなものに他人の私が関与していいはずがない。
だからこそ、供養する道理がないのだ。

役目は一つ。
縛っている何かに接触し、戦う。
結果的に縛られている者達が楽になればそれでいい。
そこには慈悲の心など微塵もありはしない。
きっと私も、ろくな死に方をしないだろう。

少女を追い越し、戦闘態勢。
急な階段を強烈な光で照らし、下へ。
…滝があった。小さな滝だ。
明るい内なら、きっとパワースポットになり得る。
しかし、今はこれが憎悪に力を与えているようだ。
降りると、さらに霧が濃密になっている。
装備チェック。グリーン。セーフティ、アンロック。
ファイアリングポジション、キープ。
エネミーサーチ、クリアリングスタート。

広い敷地にポツンと小屋がある。人の気配はない。
壁を触ると少しざらざらする。
これは燃えた跡だ。
なるほどそういうことか。
小屋が燃えたのではない。
人がここで燃えたのだ。
いわゆる移り火だ。

小屋を一周して、外壁の一面だけが焦げているので間違いない。
…奴はどこだ。
目を閉じて感覚を澄ます。視覚が当てにならないならこうするしかない。
普通自殺の類いで死んだのなら、現場にいるはずなのだが…。
動けるのか?こいつは。
全神経を空間に移し、気配を探る。

いた。見つけた。
どす黒いオーラをまとい、顔の識別なんて到底無理だ。
よほど苦しんだのであろう、憎しみの渦に身を任せている感じだ。
エネミーコンタクト。
しまった。後ろを取られた。
感覚で探しているときは隙が大きくできる。

…足が動かない。
もの凄い力で足を掴まれてしまった。
しかし腕は無事だ。
背後に蠢くそいつに向け、ストロボフラッシュを浴びせてやった。
ふっと、足が軽くなった。チャンスだ。
即座に振り返り、影に向かって射撃開始。
一瞬で弾倉が空になる。
弾倉を交換し、再び射撃。当然だが、当たらない。
例え実弾でもこうなるだろう。今回は相手が悪すぎる。
奴は言った、恨みなどない…と。
ならば何故?縛り付けられている者達は…?
奴は言った、彼等から来たのだと。
奴は言った、そっとしておいて欲しかったと。

私は銃を下ろした。
戦うべき相手ではなかった。
踵を返し、階段を上る。
振りかえると、もう奴はいなかった。

私は告げる。
悲しみを共有したくないのなら、死に人あれど共に苦しむことなかれ、と。

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