1:00AMの訪問者

これは20年前の話。
私は埼玉県のとある市に住んでいました。

大学卒業後に音楽を仕事として選んだ私は、
時間が自由になり見た目も自由で良いアルバイトを探していた。
それは、深夜営業の古本屋だった。

昼間は中古のCDと、ゲームソフト、マンガがメイン商品。
夜は文庫本とアダルト関連がメイン商品だ。
基本的に一人で、レジから品出し、買取までをする。
こう書くとワンオペのキツイ仕事に思われるかもしれないけど、
実は好きな音楽を聴けるし、特に深夜は人も少ない。
まあ、万引き対策が一番大変だった。

さて、そんなアルバイトのとある日。
深夜1:00を過ぎて、2:00の閉店に向けてまあ少しずつ片付けたり、
売り上げの中間報告のファックスをしたりしていた。

レジカウンターの中で後ろを向いて、ファックスを送り終わり
前を振り向いたら彼女はそこに立っていた
何かお探しで…と言いかけたその瞬間、食い気味に彼女は話し始めた。

「あのね、電波が届いたの今。それでね私色々知ったの」

この辺りから話し声は大きく、そして早くなった。

「だからね、私は行かなきゃいけないの。電波がね届いたの!あなたは!¥$<×*#!!!」

叫び声だ。
もう最後の方は何を言ってるのか判らない。
そして私を睨んだ。
実際には5秒だか、10秒だか、鋭利な刃物のような沈黙。
私には随分長い時間に感じた。
彼女の口はいきなり下弦の月のように、まさにニタァと笑う。
そしてこれまでの話し声の2オクターブくらい高い声で

「キャハハハハハー!!キャハハハハハー!」

そしてまた一拍の呼吸。
彼女の目は澄んでいたが、焦点か合っていない。
その黒目がちな目を思わず覗き混んだ。
あ、これ刺される…
私は、過去大量殺人の現場にたまたま居合わせた事があり、
躊躇なく人を殺す人の、 驚くほど澄んだ目を知っている。

その目を感じたその瞬間。彼女は走り出した。
店の中の平積みの陳列本コーナーを両手でメチャクチャにした後、
そのまま店の外に出て行った。

店長と電話で話した。
やって来た店長と特に盗まれていない事から、警察への通報はしなかった。
彼女は裸足でしかも手ぶらでの軽装だった。
私は店のすぐ裏に住んでいたが、彼女の噂は聞いたことがない。
彼女は、実在の人物なのだろうか?
今となっては、知る由も無い。

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