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武装心霊探訪その3

心霊探訪のピックをしていた私は、ふとある話を思い出した。寺の話だ。

営業職一年と九ヶ月が過ぎた頃、あるお寺に営業しに行っていた。
元々契約されていて、その更新という形で訪れたのである。
一日一件契約を取れば飯は食っていけるので、その日はボーナスデーといったところか。
開拓の必要がない上、いつもの営業トークも必要ない。
楽な仕事…のはずだった。

対応に当たってくれたのは、住職さんだった。
契約名義は奥さんだが、とてもいい方で、二人とも気さくだから…と、教えられていた。

車から降り、歩みを進めると、なるほど性格が顔に出ている。
やんわりとした面持ちで、快く迎えてくれた。
奥さんはお茶を入れてくると言い、どこかへ行ってしまった。

仕事の話をしようとした瞬間、住職の顔が明らかに曇った。
「随分と物騒なものをお持ちで…」
私は、「え?なんのことです?」と言い返したが、住職は「言わなくても結構です。貴方のしてきたことはよく分かる。戦ってきたのでしょう?彼等と…。私の見た限り、そこらの僧よりも強い感がおありのようだ。しかし…」

驚いた。この住職、出来る。そう直感した。
言葉を使っての会話は、あくまでも表向き。
人であるが故に繕ってはいるが、実は本心はもっと深いところにある。
私は、「しかし…?」とわざとらしく聞いてみる。
住職は、「いや、話すまでもないでしょう。闇に浸り、決して光を見ることのないおぞましい世界。…是非案内したいところがあります。貴方ならばきっとお分かりになることでしょう。一緒に来てください」

時間はあるので、ついて行くことにした。
しばらく歩くと、…墓だった。
ここは寺の裏手にある墓地だ。
しっかり供養されているらしく、安心した…すると突然、ドックン!心臓が跳ね上がった。呼吸が乱れ、頭がボーッとしてきた。視界が霞み、世界から色が消えた。
フィルターだ。
…しかし何故?ここは寺の管理する墓地のはずだ。
掃除も行き届いているし、怪しげな気配もなかった。
殺気があれば私が気付かないなんてことはない。

なのに…。

顔色が優れませんね。大丈夫ですか?」
住職が心配して声をかけてくれた。…何かおかしい。
さっきまでの住職とは雰囲気が違う。
どこだ、どこが違う…!?
そうか笑みだ!先ほどまでと違い、目が見開かれている。
顔は笑顔なのに目が笑ってない。
「やはり…。お気付きになりましたか。私も貴方も住む世界は同じなのですよ」
「ご、ご住職。仏に仕える身にありながら、地獄に堕ちた訳をお聞かせ願いたい」
痛む心臓に手をあてがい、問う。住職は抑揚のない口調で、
「我、反魂あひて此の地に害を成さんと欲す。神仏我が身を滅しては、決して救信能わざるもの成り」と言った。
私はすかさず、「蘇は反魂に非ずや。至らば悪を欲すれば、即ち己が凶の咎と成さん」

そう。住職はすでに人ではなかった。
恐らく禁を犯したのは妻だ。
聞くに住職は凶行によって命を落としている。
いわゆる殺人だ。
この墓地が穏やかなのは、よみがえりを果たした人でないものに力を貸しているからだろう。なんと業の浅ましき事かな。
お分かりだろうがこいつは住職ではない。かつて住職であった霊なのだ。
すでに畜生に成り果てたこいつを、なんとかして地獄に突き落とさなければならない。
何か武器になりそうなものはないだろうか。

一度は経も考えた。
しかしもう手遅れだ。成仏など無茶な話だ。
かといって放っておくわけにもいかない。
多分私の命が欲しいのだ。
この化け物と距離を置きつつ、辺りを見回す。

すると視界の端に、なにやら光るものを見つけた。
ある墓に備えてある、木製のナイフのようなものだった。
私はとっさにそれを逆手で握り、戦闘態勢。近接格闘だ。

しかしこの化け物、どうやらこのナイフが見えてないらしい。
素手で倒すつもりかと言っている。
もしかして…。
化け物は真っ直ぐに襲ってきた。全身血塗れの姿で。
死んだ時の姿なのだろう。
私は化け物の首を切りつけた。首があらぬ方向へ捻れる。
なにやら呻いているが知ったことではない。
胸に一撃、ナイフを突き立ててやった。

やつは消えた。
遠くで絶叫のような声がする。
改めてナイフを見ると、刃に「光明真言記為乃佛尽」とあった。
結局は仏さんの力を借りたわけだ。
なんとも滑稽な話だ。…背後に視線を感じた。
奥さんが物陰から片目で私を睨み付けていた…。

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