なにか呪文を

これは友人の体験談です。

彼女はある日、会社帰りの夜道で奇妙な人影を見ました。
だらだら続く長い上り坂。
車2台がぎりぎりすれ違う車道ですが、ほとんど車は通りません。
その坂の途中に、ものすごく斜めにかしいだ格好の人影があります。

中年の男性のようでした。
腕も足もダラリと脱力した感じで、最初は酔っ払いかとも思いましたが、
どうも全身から嫌な気配を放っていました。
透けて向こう側の景色が見えている気もします。
その時、坂の上からカバンを抱えた高校生が走って下りてきました。
高校生は平気な顔で、奇妙な人影のすぐ脇を、
それこそぶつかりそうな勢いで駆け抜けます。
その瞬間、友人は「あの人影は自分にしか見えていない」と確信しました。

普通、他人の横をそんな近い距離で走り抜けるなんてあり得ないからです
どうしよう、あの人影の横を通らないと家には帰れない。
自分が見えていることにも気づかれたら、まずい。
とにかくなにか…呪文かお経か唱えなくては、
と焦った彼女の頭にふと浮かんだのは
「マハリークマハーリタヤンバラヤンヤンヤン♪」
という、とても懐かしい魔女っ子アニメソングの一節でした。

まちがえた!と一瞬、思いましたが、
もう他のお経を思い出す余裕などありません。
嫌な人影はすぐそこにいます。
ここで少しでも気が迷い、集中力を失えば、
あの人影に気づかれてしまうかもしれないのです。

仕方なく友人は、そのまま 「マハリクマハリタヤンバラヤンヤンヤン」という
魔法の呪文を 一心に唱えながら、人影の横を通りすぎ
そのまま無事に家までたどり着くことができたそうです。

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