引き寄せられる

私は基本的心霊現象に対しては半信半疑で霊感なんてゼロですが、
私が沖縄で経験した唯一の不思議な出来事をお話ししたいと思います。

高校三年生のとき進路も決まり、父、母、祖母の四人で沖縄旅行にいきました。
私は前の年に修学旅行で沖縄に行っていたのであまり気は進みませんでした。
しかし祖母も高齢でこれが最後の旅行になるかもしれないと言う母の強い押しに負けてしぶしぶについて行きました。
観光はメジャーどころばかりで修学旅行で行った場所と変わり映えせずイマイチ楽しめずにいました。

最終日に場所はよく覚えていないのですが海の近くに車を停めて海岸に降りました。
祖母は疲れたと言うのでレンタカーのなかで待っていました。
年甲斐もなく仲良く浜を歩く両親に何となく気を使いしばらくして車に一人で戻りました。
車の中では祖母は疲れたような様子でうつむき目を瞑っていたので
そっとしておこうと思いそのまま海とは反対方向の雑木林に向かいました。
車を止めたときから気になっていたその雑木林は、鬱蒼と繁っていて人がギリギリとおれるような道が奥まで続いていました。
そういった場所を探検するのが好きな私は、良い探検場所を見つけたとばかりに内心喜び木々を分け入っていきました。

林をぬけると「◯◯中尉自決場所」と書いてある慰霊碑がある広場にたどり着きました。丁寧な管理はされていないようで地面は整えられているわけでもなく雑然とした雰囲気でした。
慰霊碑の正面には本来の入り口があり、そっちの方は舗装されていないまでもまともに歩ける道が通っていました。
戦時中の海が見えるこの場所で当時の人たちはどんな気持ちで集団自決をしたのだろうかと考えていたとき、
ふと目に入ったのが、ここにくるときに通った道よりも酷い獣道のような道が林の奥に続いている場所でした。
普段から人が通らないのか草が濃く生い茂り、
古いテレビやら電子レンジ、割れたガラスなどゴミが打ち捨てられていました。
昼間でも暗くて見通しが効かないような道なき道など、いくらなんでも入っていくのは危険だと感じました。
でも何故かその林の奥に心が引き付けられるというか、誰かに呼ばれているような感覚を覚え気がつけばその林に2、3歩足を踏み入れていました。

それまでカラカラに晴れていたのに急にパラパラと雨が降り始め空が暗くなりはじめました。
次の瞬間、ザァーと大雨が降りだし急に「戻らなきゃ」という気持ちになりました。
後ろを振り向くと慰霊碑のところに祖母が立っていました。
ついに見てはいけないものを見てしまったのかと思いましたがそれは間違いなく車のなかで寝ていた祖母でした。
いつからそこにいたの?」ときくと
「いま来た。父さんと母さんが探してる。行こう」と淡々と言いました。
そのときの祖母のようすがいつもと違うと感じすぐに駆け寄りました。
車に戻る途中に祖母はぽつりと「歳を取ると何となく感じるものがあるんだわ」といいました。
意味がよくわからなかったので聞き返したのですが、そこからなにも話してくれなくなりました。

祖母と二人で正規の道を通り車に戻りましたが
母は「なんで電話にでないのよ」とぶちギレ。
着信が入っていたのに全く気がつきませんでした。
その後はなにもなく地元に帰りつきました。

祖母は今も健在ですがあのときのことは全く話してくれません。
あのとき雨が降らず祖母も迎えに来てくれなければ、あのまま林の奥に踏みいっていたと思います。
林の奥には何があって誰が私を呼んでいたのか、
祖母の様子を見ると確かめない方がいいことだということは間違いないように思います。

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