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竹取の迷い子

2005年、K県で起こった事件。
これは実際に、その事件で警察犬を伴って捜査を行った、当時警察官だった叔父の話だ。

以下、叔父の話。

その日、竹林にて、地域参加イベントのたけのこ堀が開催された。

天気も良く、参加者は60人近く。

親子連れが多く、大人から子供まで実にたくさんの人で賑わっていた。

そんな中、事件が起こった。

イベント開始から約3時間。一人の少女Yちゃんが、集合時間になっても帰って来なかった。

母親が他の参加者と付近を捜すも見つからず、それから30分程して警察が到着。

自体を重く見た警察は、地元消防団と協力し、100人体制の人員を導入し捜索に当たった。

辺りは鬱蒼とした竹林と森が広がっており、夜になれば危険度は増すばかり。

警察犬を連れた私と他の同僚達も、必死の思いで竹林の中を駆け回った。

Yちゃんの持ち物を頼りに、捜査犬と共に後を追う。

まだ春先だ、夜になれば寒さも増す。
ましてや暗くなればこの辺りは明かりも無くかなり危険だ。
何としても明るいうちに見つけなければ。

だが、そんな思いもむなしく、Yちゃんの手がかりは、いっこうにつかめないまま。

捜索隊の連中にも、焦りの色が伺えた。

そんな時だった。

「ワンッ!」

捜査犬が今までで一番の反応を示したのだ。

「よし、いけ!」

思わず声に力がこもる。

木々の間を捜査犬と共に走りぬける。

衣服に何かが絡まるが、気にしている場合じゃない。

急げ、もっと早く!

近い、私はそう心の中で確信していた。

気がつくと、周りからも何やら走り寄る音がした。

一瞬辺りを見渡す。

他の同僚達だ。
私と同じ捜査犬を連れている。

間違いない、Yちゃんはすぐそこに……!

が、次の瞬間、竹林の獣道を走っていた私の足は、そこで止まってしまった。

丁度獣道が交差点のように交わる、少し道が開けた場所。

他の同僚達もだ。私と同じ場所でその足を止めていた。

そこには、何も無い。
私達と、犬達以外に誰も。

困惑した私達は互いに顔を見合わせた。

その時だった、突然犬達がけたたましく吠え始めた。

驚いた私達は急いで犬をなだめた。しかし一向にいう事をきこうとしない。

一般の犬ならいざしらず、特殊な訓練をつんだはずの警察犬が、こんな行動を取るなんてあまりにもおかしい。

私達の制止の合図にも目もくれず、犬達は吠え続けると、やがて上空を見上げ、更に大きな声で吠え始めたのだ。いや、何かに怯えているのか?

逃げるようにして吠える犬達、それに釣られるようにして、私達も上空を見た。

「キーキキーッ!!」

突如降り注ぐ、かん高い動物の泣き声、猿だ。
数引きの猿が、竹の木に器用に掴まり、ぶら下がった格好で私達を見下ろしていたのだ。

「さ、猿?な、何で、」

同僚の一人がそう口にしたその時だ、

ザザーッ!

突然竹が折れんばかりに大きくしなった。

そして次の瞬間、私達の視界に、とても信じられないものが映りこんだ。

信じられない程の巨大な人影が、竹林の中を掛け抜けたのだ。

有り得ないでかさ……目を疑いたくなるような程。

「な、何だあれ!?」

大きな猿!?いや、あんな猿がいるわけがない!
あまりよくみえなかった、何かの見間違えなのか!?

すぐにそれを目で追う、が、突如、
その場に居た私達を吹き飛ばしそうな程の突風が吹き荒れた。

思わず両手で前を覆う。

竹林がザザーッと、波打つように揺れていく。

すぐに顔を上げ、あの巨影を探すが、その姿はもう、どこにもない。

後に残ったのは、私達を嘲笑うかのような、猿達の遠吠えのみ。

やがてそれすらも、風と共に掻き消えてゆく。

以上、叔父が十数年前に体験した話だ。

叔父はその後、事件の後すぐに警察を退職したらしい。

あれが何だったのか、それを知りたいと思う気持ちと反面、事件を解決できなかった自分への自責の念に、耐えられなかったと言っていました。

事件は今だ未解決のまま……いつかYちゃんが無事戻ってくる事を、今は亡き、叔父と共に願っています。

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