秋の終わり。
どこかに、楽で、高収入で、長く続けられるバイトないかな…
そんな現実逃避を毎日していた。
ある朝、ふと目に付いた古い民家。
アルバイト募集
自宅警備
日給 5万円(場合によっては上乗せします)
時間 17:00〜8:00頃
内容 部屋の中にいるだけの簡単なお仕事です。部 屋の中では何をしていても構いません。
詳しくは直接お尋ね下さい。
※なお、事故や負傷された際の責任は負いません
紙には手書きでそう書かれていた。
「ふっ、部屋に半日籠るだけで5万?あほかよ」
バカバカしい内容に俺はぽつりと呟いた。しかし、
「…行くだけいってみるか」
俺は好奇心とお金の魅力に惹かれて家を訪ねた。
インターホンを鳴らすと中から返事が聞こえた。
「あの…バイトの紙見たんですけど…」
こんな古い家だからてっきり老人が住んでいると思っていた俺は少
「ああ、見てくれましたか。ありがとうございます。
俺は言われるまま中に入り、小さな和室に通された。
男は座布団を敷き、お茶をちゃぶ台に置いた。
「あ、わざわざすみません。」
「いえいえ、せっかく来てもらったんで。…
「あ、はい…」
「ありがとうございます。私は橋本と言う者です。まぁ、
「えっと…小林です。」
「小林くんか。大学生かな?」
「はい…あの、とりあえず話聞こうと思いまして…」
「そうだねぇ…自宅警備員って感じかな。あぁ、
「えっと…部屋で半日過ごすだけで5万円ももらえるんですか?」
「んー、まぁ厳密に言うと夕方から朝方にかけて、かな。」
「じゃあ12時間くらいですか?」
「だいたいそうだね。あ、もちろん報酬は変わらないよ。
「どんなことするんですか?」
「何をしていてもいい。ゲームでも読書でも、寝ててもいい。」
…バカな。そんな楽なバイトで高額なんて怪しすぎる。
「…まぁ、怪しいか。別に私は変なことしたりしないよ。
「…なんでこんなバイトを雇うんですか?」
「それは…まだ言えない。もっとも、
「…ちょっと怪しいですけど…
「あぁ、約束しよう。しかし、私とも1つ、
橋本さんは真剣な目で俺を見つめる。
「…なんでしょうか」
俺も真剣に耳を傾ける。
「絶対…絶対に私が扉を開けるまで部屋から出ないでくれ。
俺は肝心な質問を忘れていた。
「…なぜですか?」
「…いずれ話す。わけがわからないだろうが本気なんだ。」
橋本さんは冗談を言っているようには見えない。
「わかりました。守ります。」
俺は真剣な表情の橋本さんを信用することにした。
「ありがとう。いつ来れるかな?」
「今夜からでも大丈夫です。」
スマホのカレンダーを開き、予定を見る。
「できれば毎日来れないかな?」
「毎日?」
「あぁ、バイト代は出すよ。」
毎日5万円…2日で10万だ。3日で今のバイト代くらいになる。
「もちろん、やらせてもらいます。」
俺の心は舞い上がっていた。人生の勝ち組だ。
「よかった。じゃあ今日の17時に来てね。
俺は橋本さんに礼を言い、家を出た。気分は最高だ。
17時、俺はコンビニで飲み物やお菓子を買い込み、
「お、来てくれたね。さ、こっちの部屋だよ。」
俺は最初に通された部屋の隣部屋に案内された。
「ここで朝まで過ごすんですか?」
「そうだね。何も無くてすまないが…」
襖の横には黒電話が置いてある。
「なにかあったらその電話で連絡してくれ。」
俺は部屋の真ん中に荷物を置き、橋本さんを見送ろうと振り返る。
「じゃあ、橋本さん。あとは任せて下さい。」
「…うん。じゃあ私は行くから、絶対部屋出ないでね。
そう言うと橋本さんはゆっくり襖を閉めた。
…さて、1人になってしまったな。俺は布団に座り周りを見渡す。
「…寒っ…」
俺はあまりの寒さに目を覚ました。どうやら眠っていたようだ。
ぎし…
廊下のきしむ音がする。古い民家ではたまにあることだ。
ぎぎぎ…ぎっ…
違った。この家は歩くとこの音がする。
ぎぎぎっ…ぎ…ぎ…
一歩一歩踏み込む音。俺は廊下側の襖を見る。
ぎ…ぎ…ぎ…ぎ…
一定のリズムで聞こえる音。誰かがいるんだ。
…なぜ警備員が部屋に籠るのか。部屋を出てはいけないのか。
俺は絶対に考えてはいけないことを考え始めていた。
…部屋から出てはいけない。
出たらどうなる?これは誰だ。冷や汗が流れる。
ぎ…ぎ…ぎぎ…
だんだんと近づいてくる。絶対に人がいる。
…これ、もし開けられたらどうするんだ…?
気づいてはいけないことに気づいた気がして心臓が早くなる。
ドン
襖を叩く音だ。襖はガタガタ揺れている。
誰だ、風か、俺は布団にゆっくり入り襖を睨む。
ドン
再び叩かれる。嘘つけ、足音はまだ部屋の前まで来てない。誰だ。
ぎっ…ぎっ…ぎっ…
一瞬で襖の前に来た足音は歩くのを止める。ありえなかった。
襖の向こうにはなにがいるんだ。
俺は寝返りをうった。
「誰?」
続く