20歳の頃の話
成人式を終えた後の楽しみと言えば同窓会であるが、当時嫉妬深い彼女がいたので俺は同じような境遇の友人と一緒に帰ってゲームを楽しんだ。
後日、小学校からずっと仲の良かった友人のAがその同窓会で『好きな人ができたので相談にのってほしい、協力してほしい』と夜遅くに電話をしてきた。
今でいう草食系男子であったAに好きな人ができた事が嬉しく、快く承諾し男二人水入らずで夜のドライブへとでかけた。
『覚えてる?中学校が一緒だったB』
名前だけは覚えていて、たしか3年の時にクラスが一緒になったが一度も話したことがない人であった。
『あぁうん。名前だけは記憶にあるな』
そこからAに何度か2人で食事へでかけた事、自分の好意を伝えた事、返事待ちである事などを聞いた。同窓会から3ヶ月くらい経っていたので、AはBとお付き合いしたくて頑張っているんだなと思った。
『ところで相談って?』
俺が切り出した時、少しAの顔が曇ったのを覚えている。
『Bからの返事。もう1ヶ月待っているんだ』
1ヵ月。何かBに事情があるにしても待っている側のAからしたらたしかに長い。
『実はさっきも電話して、お前に会うんだ。て世間話もまぜながら返事を尋ねたんだけど、そしたら今日また連絡します。て…だから成功したら祝ってくれ!失敗したら慰めてくれ』
なんだ相談じゃなくて話を聞いてほしかっただけか。そんな他愛のないやり取りをしてる最中にAの携帯に着信が…Bからであった。急いで最寄りのコンビニに止めて携帯にでるA
『もしもし…うん、今二人でドライブしていたとこだよ…うん、そう俺君といる。え?代わってほしい?』
Aが携帯を渡してくる、呆気にとられている俺を横目にAはコンビニの中へ入っていった
『もしもし、俺君?』
携帯から声が聞こえてくる。
『もしもし、Bさん?お久しぶりです』
別に警戒しても仕方がないし、まあ同級生だから懐かしい話でもしたいのであろう。そう思った俺は携帯を耳にあて世間話でもしようとした
『私ね?貴方のこと、ずっと好きだったんだ、ずっとずっと。中学校の頃から毎日貴方のこと想ってたのよ』
『え?』
何の話をするでもなく、Bはいきなり俺に告白をしてきた。
『だから私貴方のことが好きなの。同窓会で会ったら偶然を装って近づこうとしたのにどこ探しても貴方がいないから、昔から仲の良かったA君に近づいてこうやって貴方と会う日を待ってたのよ…ねえ、私と付き合いましょう?』
Bが電話越しに妙に色っぽい話し方でそう言うと、続けて
『A君から貴方に彼女がいることは聞いているわ、でも私の方が貴方の事を愛している。私貴方のためならなんでもするわ?現にこうやって手段を選ばずに貴方に近づいたわ。私なら貴方を幸せにできる。今すぐ彼女とは別れて、別れて、別れて』
別れてと連呼するB。そのうち愛しているだとか好きなのだとかそんなような言葉に変わっていた。
この人はこの3ヶ月もの間、俺に近づきたい一心でAとデートしたりしたのか…Aにとってのこの3ヵ月は何だったんだろう。Bの行動に最初こそ驚いて恐怖した俺だが、段々と怒りがわいてきた。
『Aの気持ちはどうなるんだ?俺の大事な友人を傷つけるような行動はやめてほしい、それに彼女のことも大事だから貴女と付き合うとかは考えられない』
そう言って携帯を切る自分。コンビニの方に目をやるとAが缶コーヒーを買って出てくる所であった
『Bさん、何だって?』
Aが俺に尋ねる。キチンと話すべきことだがどう伝えればAを傷つけずに済むか。そんな事を考えていた。そんな俺の返事を待たずに、Aは少し空気を変えて俺に話かけてきた。
『Bさんはキチンとお前にフラれたのか?』
『え?』
急激に身体が冷え込む感覚に陥った。全身に鳥肌が立ち、呼吸が荒くなる。そんな自分を無視してAは続ける
『Bさんがお前に気があることに俺は気づいていたよ。利用されているんだろうなと思った。分かっていても俺はあの人が好きだから、だからキチンとお前にフラれて傷心してるあの人に俺がこれから時間をかけてでも近づくのさ。俺の【協力してほしい】てのはこれだよ』
嬉しそうに話すA。俺は頭の中の整理が追いつかなかった
『そういう事だから用事も済んだし、車から降りてくれよ。俺の好きな人がお前を好き。てだけで本当は虫酸が走るくらい嫌だったんだ。じゃあな』
あれから10数年。Aとは1度も連絡をとっていません