私が幼稚園児の時に体験した話です。
当時私は茨城県のとあるマンションに住んでいました。
そのマンションの近くには踏み切りがあり、よくパトカーや救急車が来てはサイレンを鳴らしていました。
人身事故多発。注意。
そんな言葉が書かれた看板が踏み切り近くに立て掛けられているのを、幼稚園帰りによく見ていました。
それほどそこでは人身事故が多かったんです。頻繁にニュース番組で特集されるほどでした。
そんなある日。
いつもの帰路を、幼稚園に迎えに来た母と手を繋ぎ、その日の出来事を話しながら歩いていました。
話は弾み、気がつけばマンション近くまで来ていました。
母と笑いながら、そのまま踏み切り真横のゴミ捨て場を通りかかろうとした時、突然邪悪なナニカを感じました。
視線。
それは私の動きを瞬時に止め、冷や汗をタラリと垂らすほどの嫌な”視線”でした。
しかし、隣に居る母はそれに気づいた様子もなく、依然にこやかに歩いています。
「こちらを見てる人は誰だろう」
気になった私は恐る恐る視線の先を見てしまいました。
そこに居たのは、傷だらけの少女でした。
全身血だらけ。
捻切れそうな手足からは血が流れ出し、少女の服を真っ赤に染めていました。
髪はおかっぱ、目は虚ろ。歳は7〜10歳位でしょうか。
一部以外は漫画の「ちび○子ちゃん」に格好がそっくりです。
関節は逆を向き、立ってるのもやっとな様子でした。
顔もボロボロで、口はほとんど形も残っていません。
その口がニタァと口角を上げ、クックックと肩を揺らしています。
こちらを見て笑っている様子でした。
ゴミ捨て場のその異様な光景は、今でも鮮明に覚えています。
「この子はなんでこんなボロボロなんだろう。というか周りの人はこの子に気づいていないのかな。全くそちらに見向きもしない。まさか……幽霊……かな。……怖い」
私は怖くなりました。
もともとその踏切近くでは良い噂を聞かなかったのです。
「またあそこで事故が……」
「幼い子が電車に巻き込まれて……」
「サラリーマンが……主婦が……お爺ちゃんが……」
「日夜亡くなった方々の幽霊が……」
……私は「早く帰ろ!」と母の手を引っ張って、マンションへと走り始めました。
「ちょ、ちょっと待ってよ」と、母はよたよたしながら私について来てくれました。
ある程度走った時、後ろをバッと振り向きました。
しかし、もうそこには誰にも居ませんでした。
家に着いた時、真っ先に母に尋ねました。
「あの踏切横のゴミ捨て場に、こういう女の子居たよね!」と。
しかし母からは、
「いや? そんな子居なかったわよ。それよりあそこらへんは踏切やその前の横断歩道で事故が多い場所なんだから! いきなり走ったりしたら危ないでしょ! もう! 駄目だからね!」
と注意されてしまいました。
やはり母には何も見えていない様子でした。
今でもよくその出来事を思い出します。
あの子は何故私にだけ見えたのでしょうか? 私に何かメッセージを伝えたかったのでしょうか?
それとも……。