噂の真実

小学生の頃、一度心霊写真騒ぎが起きたことがあるんです。
写真というと語弊があるかもしれませんが、とりあえず写真で。

その騒ぎが起きたのは、ある日全校生徒に配られた下敷きが原因でした。
ひと月ほど前に全校生徒が校庭に集まり、屋上にいるカメラマンの先生を見上げて撮った写真と、学校全体を写した航空写真が両面に印刷された下敷きでした。
というのも、来年この校舎が壊されてしまうので記念品として配られたものでした。

そしてその写真が心霊写真だった、というわけなのです。
配られた私たちは「私ここにいた」「A君変な顔してる」など全校生徒が見上げて写る写真をまじまじと見てはしゃいでいました。

たしか騒ぎになったのは次の日です。
男子生徒が「昨日の下敷き心霊写真だ」「いっぱい写ってる」だなんだと騒いでたのです。
はじめは男子のおふざけ、という感じで女子も先生も「はいはい」と済ませていたのですがその騒ぎは収まらず、学校のいたるところでその話で持ちきりになりました。
すると先生もさすがに「どこに写ってるの?」と確認しはじめました。
私も友達に教えてもらったのですが、正直言われた時はよく見えず「うーん、よくわかんないや」と返した気がします。

家に帰って自分の貰った下敷きをよくよく見てみると、たしかに赤ちゃんの手らしきものが写っていました。
先生は「光の加減でそう見えるだけよ」とあしらっていましたが、よくみると少し光った丸いものには指のような線もあるのです。
男子曰く、何人かの生徒の肩を掴んでいたり、右目にかかっていたり手を掴んでいるとのことでした。
先生側の対応としては「幽霊ではない」とのことなので下敷きが回収されることはありませんでした。

その後、騒ぎは収まりましたが、学校の引越も近くなった時期にまたある噂が流れはじめました。

それは『夜、学校の近くを歩いていると赤ちゃんの泣き声が聞こえる』というものから『赤ちゃんの声の噂を聞いて行ったら、赤ちゃんの声と共にブランコが揺れてる音がした』などというものでした。
その噂が流れ始めたのは、校庭の遊具が紐でくくり上げられてまとめられたり、木々も移植のために抜かれはじめていた時期だったので皆は口々に『何かを掘り起こしてしまったのではないか?』と根拠もない話をしていました。

そこまでくると『この土地で何かあったのではないか?』という疑問が浮かびました。

親に聞いたりしたものの、「戦争中の避難所だった」とか「戦時中の人捨て場だった」とか本当かどうかわからないこれまた噂が飛び交いました。
子供だった私達は『戦争中に人が多く死んでしまった場所』ということで収集がつきましたが、今思い直してみればなぜ『赤ちゃんの手』なのかはわかっていません。

しかし、今でも小学校の頃の友達にこの話をすると「覚えてる覚えてる!本当に怖かったよね」や「夜に鏡に赤ちゃんの手形がたくさんついてるっていう七不思議の一つでしょ?」と七不思議にまでも君臨していたようです。

—————————————-
後日談。

某日、ふとその下敷きや赤ちゃんの噂を思い出した私は、心霊に興味があるという方々に「心霊写真らしきものがあるのですが、見ていただけませんか?」と話を持ち掛けてみました。
快く承諾していただいたので、一通りの経緯と原本を渡せなかったので下敷きの写真を送りました。

内心では、「どんな風に見えるかどうかだけでも聞けたらいいな」程度に考えていたところ、実際に鑑定師さんに鑑定をしていただけることになりました。

簡潔に言うと結果は『とくに何も感じられない』つまりは心霊写真ではない、ということでした。
「写真から感じられるのは、女の子たちからの派閥争いみたいな感情だけです。
拳の映り込みは確かに不思議だけど、御霊だとしても強いものではなく、近くに川があるならそこから彷徨ってきたものかも……」

その内容を聞いたとき、いろんな感情が混ざりました。
危ないものでなくてよかった安心感と、心霊写真じゃなかったというちょっとした残念な気持ちと、真実がわかった喜びと、驚きと困惑です。

驚いた理由は、実際に学校のすぐそばには川があったからです。
困惑した理由は、”もしかしたらそこから彷徨ってきたナニカ”というあいまいなモノに私達学校生徒は信じ、噂が確立し、ある人は怯え、何年も踊らされていたという事実です。

朗読: 朗読スル脛擦(すねこすり)
朗読: 朗読やちか
朗読: 繭狐の怖い話部屋
朗読: ジャックの怖い話部屋
朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる