ここだよ

私が大学生時代に学費を稼ぐ為、深夜のアルバイトをしていた時に体験した話です。

当時の私は、少しでも給料を学費に当てる為、大学は東京だったのですが、埼玉の実家から電車で毎日2時間近い通学をしていました。
東京でのアルバイトだった為、当然深夜まで東京でアルバイトをして帰る時間には、終電も間に合わない様な状態でした。
そこで、アルバイト先の社長が「学生だし特別に事務所に泊まっても良いよ」と事務所の鍵を条件付で貸してくださいました。

条件と言うのは、事務所を使ったら元通りにする。
事務所には大事な書類もあるから鍵は無くさないと言う様なもので当時の私からしたら給料も貰え深夜まで働き直ぐに寝れるのは破格の条件でした。
ただ一つ気になった事があり、その事務所と言うのが、二つの家を繋げただけの、所謂二世帯住宅と言う物でした。
アルバイトで入った当時は、社長の実家か何かだと思っていましたが、それとなく社長に聞いてみると、売家を買っただけだと言うので、少し変だな思いました。
何故、変と感じたかと言うと、その事務所には冷蔵庫や洗濯機や食器棚が、そのまま置いているのです。
社長が住んでいたのか聞くと「最初からこの状態で、元の持ち主も全部そっちで処分して良いって言うから、このままなんだよ。」との事だが、私には違和感しかありませんでした。
だってエアコンや冷蔵庫の様な物だけなら分かりますが、タンスの中には衣類がそのままだったり、食器棚には食器類がそのままだからです。
私が「夜逃げじゃないですか」と言うと社長は「いや、本当に金持ちな人達で、引っ越し先で全部揃えるんで、いらないって言ってたんだ。」と言うのです。
当時の私は、世の中には変わった人がいるんだなと思いました。

それから数ヶ月が経ち夏に入り大学も休みになりましたが、午前中は研究室や図書館で勉強するので、夏休みでも日中は大学で夜はアルバイトと言う生活でした。
そんな折、社長から深夜のアルバイトが終わったら帰る際に事務所の2階の窓を開けていってくれないかと話しがありました。
深夜のアルバイトが終わったら事務所に帰り、風呂へ入り寝る前に暑いから窓を開けていた私としては問題なかったので了解しました。
そして、いつもの様にアルバイトが終わり事務所で深夜1時くらいに寝ていたら、突然目が覚めてしまいました。
時計を見ると針は2時を刺しており、何で目が覚めたのか分からなかったですが、明日も学校だから早く寝なきゃと思いましたが、全然眠れませんでした。
仕方ないので、寝つくまで落ち着こうと横になっていましたが、突然に外から「ここだよ」と言う小学校低学年くらいの男の子の声が聞こえてきました。
私は、こんな夜中に何だろうと思いましたが、ふと頭の中に「ああ、そうか夏だから肝試しでもしてるのか」と思いました。
実は事務所の裏は大きな墓所になっています。
事務所の玄関先は大通りなのですが、トラックが通り危険な為、小学校の通学路は裏の墓所を通るのです。
なので私は、通学路途中の墓所で小学生が肝試しでもしているのだと思いました

そんな事を考えている間も「ここだよ」と言う声は私が居る事務所の方へ近づいて来ていました。
事務所は墓所の丁度真ん中辺りに位置し、事務所と墓所の塀の所には、そこそこの大きさの仏が設置されていたので、そこをゴールに向かって来ていると思いましたが、そこで2つ変だと言う思いがありました。
1つは、気配がその男の子しか感じないのです。
友達も家族もいるような感じがしないのです。
もう1つは、この子はどうやってゴールまで向かって来ているのだろうと言う事です。
墓所は右や左へと曲がらなければならない為、真っ直ぐ進む事が出来ないのに、その子は真っ直ぐ進んでいるのです。
私は、おそらくですが、お墓を跨いで進んでいるのだと思い、深夜に一人で墓を跨いで進むなんて、子どもでもダメだろと思いました。
それに、ずっと怖いのか「ここだよ」と言い続けているのです。
怖いなら辞めればいいのにと思っていると、その子が事務所から3メートルくらいの位置に来た時に、墓所の入り口くらいから、女性の声で「ほら、行くよ」と言う声が聞こえました。
そうすると、その子はスタスタと声の方へ走って行ってしまいました。
私は、親が来てたのかと思い、こんな時間に非常識だなと思い、また早く寝ようと努めていましたが、ふと変だなと思いました。

今思い返せば変な事だらけですが、頭の中には1つだけ、親と思われる女性の声から言われた。
「ほら、行くよ」です。 私は「これから、あの家族は何処へ行くのだろう?」 その事が、私の頭いっぱいに広がりました。
何処に行くのだろう?何をしに行くのだろう?と思っていると 私の寝ている事務所の2階の窓の直ぐ側から男の子の声で「ここだよ」と声が聞こえて来ました。
そこで、私は意識を失い眠ってしまいました。

次の日からは、事務所の窓を開けるのが大変になりました。
何せ怖いから開けられない何て言えませんから。

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