よく小さい頃は見えて大人になるにつれて見えなくなるって話を聞くけれど、多分そうなんだろうなって思う。
別に霊感なんてなかったけどさ、思えば怖い経験って子どもの頃に集中してる。
確か小学4年の時だったかな。 友達の家に遊びに行ったんだ。
そいつの家の周りは田んぼだらけ。
俺達は田んぼのあぜ道や側溝の端のコンクリの上を走ったり歩いたりして遊んでた。
その側溝の端のコンクリの上にさ、お地蔵さまがあったんだ。
まぁ、正確に言うとお地蔵さまかどうかはわからないけれど、お地蔵さまのような石の像があったわけ。
今にして思えば、あぜ道や道路の端ならわかるけど、そんな所に普通あるものかねって思う。
だからあれはやっぱりお地蔵さまではなかったんだろうな。
でさ、俺は側溝の端を歩いてたから、その石像をまたいだんだよね。
そしたら友達が言うんだよ「またぐなんて罰当たりだって」さ。
そんなの知らないよなぁ。
言われると確かにちょっと失礼だったかなって気にはなったけど、そのまま夕方まで遊んだよ。
その夜、俺は人生で初めて金縛りにあった。
いつもどおり子ども部屋で弟と並んで寝ていた。
二段ベッドを買って貰う前の話でさ、俺達兄弟はまだ床に布団を敷いて寝ていたんだよね。
布団に入ってしばらくして「あっ、体が動かない」って気付いた。
寝返りを打とうとしたのかもしれない。
で、その金縛りは段々酷くなる感じで、最後には体が硬直して本当に動けないんだってわかった。
その時、カチャって音がして部屋のドアが開いたようだった。
意識はハッキリしていて目は見えた。 そう、眼球だけは動かせたんだ。
だから俺は音のしたドアの方を眼球だけ動かして必死に見ようとした。
見なきゃ良かったよ。 ドアの下、するりと赤ん坊が入ってきた。
薄暗がりの中でその赤ん坊が赤黒く見えた。
「うわっ」と思った瞬間だった。
ビタビタビタビタビタ
そいつは四つん這いでハイハイしながら凄い早さで俺の方に向かって来た。
怖い怖い怖い。 俺は焦った。 何とかして体を動かそうと体をねじった。
ビタビタビタ
赤ん坊の手が布団にかかった。 俺の顔のすぐ近く。
「うわぁぁぁぁ!」
今度はちゃんと声が出たんだと思う。
俺は力いっぱい叫んで跳ね起きた。
隣の弟が起き、それから両親も「何だ何だ」と起き出してきたよ。
俺は汗びっしょり。 その赤ん坊はもういなかった。
翌日の放課後、関係があるかないかはわからなかったけれど、あの石像の所に行って「ごめんなさい。失礼しました」って謝った。
それから赤ん坊は見てない。
でもさ、今でもあの赤ん坊の顔は忘れないよ。
凄いスピードでハイハイしてきて俺の顔近くまで来た時の、ブヨブヨに腫れたような顔、そして開かない細い目。