下校途中

 短い話です。 中学3年生の頃だったと思います。

 その頃毎朝、友人Nと待ち合わせて一緒に登校していました。
 夏まで私は部活に所属しており、それまでは帰りが遅かったので下校の時はバラバラでしたが、引退後は学校の正面玄関で待ち合わせ、一緒に帰路につくようになりました。

 ある日、ザーザーと雨が降る夕方、
 私はNとお喋りを楽しみながら帰っていました。
 夕立だったのでしょうか、頭の上は真っ黒な雲で覆われていましたが、西の空は夕焼けで明るかったのを覚えています。
 赤い光が空に滲み、少し不気味な空でした。
 登下校で使っていたルートに、両側を田んぼで挟まれた真っ直ぐの道がありました。
 ひらけた場所でしたが、そうは言っても住宅地の一角なので、街灯も多く、キョロキョロと見渡せばずらっと並ぶ家々が目に入ります。
 不気味な空の下、丁度その道に差し掛かかろうとしたとき、道の真ん中に何かが見えました。
 視力の悪い私は目を凝らし、Nに言いました。
「あれ? 大丈夫かな?」
「なにが?」
「ほら、だれか道路に座りこんでる! おばあちゃん、かな……?」
 暗くなりつつある雨の中、目を凝らしてもぼんやりと見えるだけでしたが、水浸しの道路にだれか座っているように見えました。
 釣られてNもじっと前を見て確認していましたが、正体が分かるよりも先に私たちは少し歩みを早めていました。
 具合が悪いようなら大変でしたから。

 雨は騒がしく降り続いていました。
 びしゃびしゃになったアスファルトに、街灯の光が滲んでいました。
 もうだいぶ近づいてきたとき、 ぴたり、とNの足が止まったのです。
 同時に私の手をぐっと掴みました。
 殆ど駆け出していた私はバランスを崩し、何事かとNの顔を振り返ると、じっと前を見て表情が固まっているN。
「だめだよ、あれ違うよ」
 先程まで向かっていた方向に、振り返りました。
 改めて確認すると、確かに老人(そう見えました。女性か男性かはわかりません)が道にいました。
 ぼろぼろの着物のようなものを着た、というよりも麻布を体に巻きつけるようにしたびしょ濡れの老人が、座りこんでるのではなく、体を小さくして道に這いつくばっていたのです。
 顔は詳しくは記憶していません。
 それでも、ガバッと開いた口と、限界まで見開かれたギョロっとした目を、覚えています。
 確かに”違う”。
 あれは生きた人間ではありませんでした。
 私たちは悲鳴をあげ、逆方向へ駆け出しました。
 すぐに、家が立ち並ぶ小さな交差点があったので、そこを曲がり住宅地に駆け込もうとしました。
 その瞬間、ふと「もしかすると本当は、倒れて助けを呼んでいる人だったのかも」と思い、角を曲がる直前、道の方を振り返りました。
 そこには誰もいませんでした。

 あれから10年ほどが経ち、実家から近いこともあって今でもその道を通ることはありますが、あの夕立の時以来、同じ経験はしていません。

朗読: りっきぃの夜話

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

閉じる