来訪者

ある日のこと。

私が台所で夕食の後片付けをしていた所、
玄関の方から「おーい…おーい…」と誰かが呼ぶ声が聞こえてきました。

実家に住んでいるのは両親に兄と私。
私にはもう一人兄がいて、彼は実家を出て一人暮らしをしているもののちょくちょくと帰ってきていたためその兄かと思いました。

しかし玄関のすぐそばにいる母は声が聞こえていないのか無反応。
同じ部屋にいた兄も無反応で、父に至っては眠っていたので私以外にはだれも気付いていない様子。
そもそも、「今から帰っても良い?」と連絡をしてくる兄らしくないな、と感じた時にふと頭に浮かんだ話がありました。

どこで聞いたのか読んだのか…
外国で言うドラキュラ同様に、 幽霊は開けて貰わないと入れないのでなんとかして扉を開けて貰おうとするという話。

まさかそんなわけ…きっとお隣さんに尋ねていった誰かの声が聞こえているんだろう。 そう思って台所の電気を消して母たちのいる部屋へと向かおうとしたところでまた聞こえました。

「おーい…おーい…」

それは確実にうちへの呼びかけでした。
誰かが、扉の外にいる。
そう思い、母が扉を開かないようにしようと思いましたが 「兄から連絡来てないよね?」 と尋ねた所で止める間もなく「きてないよ?え?来たの?」と玄関の扉を開けてしまいました。
おもわず「違うからすぐにしめて!!!」
そう怒鳴ってしまった私に驚いて母が鍵を閉めなおしましたが、私は冷や汗が止まりませんでした。

ずっと聞こえていた「おーい」という呼び声が玄関を開けた瞬間から聞こえなくなったからです。
「どうしたの?」 と尋ねてくる母に何も言えず、私は曖昧な返事を返しながらその日は早々と寝支度を整えて就寝してしまいました。

次の日、なんとなく嫌な気分ながら起きると母もすでに起きており「不思議な夢を見た」と言ってきました。

聞いてみると、夢の中では家に母が一人。
チャイムの音かずっとなっており「どなたですか?」と声をかけるもチャイムは鳴りやまず。
不思議に思いながら玄関が見える位置まで移動すると、15cmほど玄関が開いていたそうです。

「あれ?鍵を閉めなかったかな?」 と思い近寄ると、外に見ず知らずの老婆がいたそうです。 それも玄関から家の中をじっと見つめているとの事。

顔を半分だけのぞかせたしわくちゃの顔に驚いて固まっているところで目が覚めた、と母が「不思議な話でしょ?」と笑っていましたが、 私にとっては笑い事ではありませんでした。

そのまま母は用事があるから、と出かけていきましたが、私は一人家に残されてがたがたと震えるしかできませんでした。
だけど夢の中では家に入ってきていなかったんだ。
大丈夫。 誰もいない。
自分に言い聞かせている時、

ばたんっ!!!!!!!!!!!!!!!!

勢いよくドアを閉める音が聞こえました。
驚き確認しに行くと、家の奥にあるトイレのドアが閉まった音のようです… このトイレ、昔からひとりでにばたんばたんと開閉して気持ち悪かったのですが、いつもは風のせいだろうとあまり気にしていませんでした。

今回もそうだろう…そう思って一応確認するも、トイレの窓はしまったまま… トイレへと続く廊下などの窓も… あまりにも恐ろしくなり、私は急いで財布と携帯を握り締め家から出ようとしました。

兎に角、この家に一人でいたくない。
そうおもって玄関へと手をかけた所でふたたび

ばたんっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

トイレの扉が思い切り閉じられた音が聞こえてきました。
叫びそうになりながらも家を飛び出し、母や仕事に言った兄たちが帰ってくる時間まで私は帰れませんでした。

朗読: りっきぃの夜話
朗読: 怪談朗読と午前二時

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