玄関のチャイム

短めのお話ですが、投稿させて頂きます。

これは私がまだ小さかった頃の話です。
当時私は小学校の3年生に上がったばかりでした。
その時の私は、学年が上がって大人ぶりたかったこともあり、
親のお手伝いを進んでしていました。
朝一番に朝刊を取りに行ったり、夕飯の手伝いをしたり、
家族の背中に湿布を貼ってあげたり。
お手伝いをして褒められることがとても嬉しかったのです。
そして休日の主なお手伝いといえば、
玄関のチャイムがなったら、インターホンにでて応対することがありました。

ある日私はピンポーンというチャイムの音を聞き、インターホンにでました。
いつもやってくる宅配便のお兄さんのようで、
「お届けものです、鍵開けてもらえる?」と言われました。
昼間の明るい時間帯でしたが、家には誰もおらず、
私がやってあげよう!!と意気込んでドアの方まで駆けていきました。
靴を引っ掛けて鍵を開けようとした瞬間、
私の左手が勢いよく、ぐうううっ、と引かれました。
驚いて後ろを振り返ると、
そこにいたのは私の左手を掴み眉をつりあげている母親でした。
母親はさっきまでいなかったはずなのに、と首を傾げていると母親は
「何してるの」と聞いたことのないくらい低い声で尋ねました。
いつも優しくて穏やかな母親の、見たことのない様子に私は怖くなり、
「ピンポンが鳴ったから、出なきゃ」と怯えながら言いました。

私が異変に気付いたのはその時でした。
先程まで燦々と差していた日差しが消え失せ、辺りは真っ暗でした。
暗闇の中で目を凝らすと母親はパジャマを着ており、
私もまたパジャマ姿でした。
そんなはずはない。先程までは休日の昼過ぎで、洋服を着ていたはず何でこんなに暗いんだろう?そんなことを考えている私に向かって母親はピシャリと
「出なくていい」というと、ベッドに引っ張って行かれました。
そんな時も私は褒めてもらいたくてやったのに何で怒られたんだろう、
とのんきに考えていました。
母親と一緒にベッドに潜り込むと、
母親は私を苦しいくらいしっかりと抱きしめ、眠りました。

翌朝、母親に事の次第を聞くと、以下の説明を受けました。
夜、母親が私と一緒に眠っているといきなり私が「はーい」と言いながら
ベッドを抜け出し玄関まで走っていったそうです。
母親は何事かと私を追いかけて捕まえたが、
「玄関のチャイムが鳴った」と私が言ったのだと言います。
もちろんチャイムの音なんて鳴っていない。
こんな真夜中にチャイムが鳴るはずもない。
イタズラをしてからかっているのか、と思ったが
心底不思議そうな子どもの顔を見て
ふざけている訳ではないと察したのだと言います。
もしかしたら何か不吉なことがあるのでは、と怖くなった。
このような具合でした。
付け加えて、世の中の神隠しというものはこうやって起こるのかも知れない、とも言いました。
私は腕を掴まれるまで本当に真昼間だと思っていたし、
インターホン越しに話した記憶もある。
逆に寝ている状態から目を覚ました記憶はなく寝室を通った記憶もない。
単にインターホンが終わって玄関に向かう時に目が覚め、
現実と夢の区別がつかなかったゆえの出来事かもしれません。
実際怖い思いはしていないし、何か被害があったわけでもありません。

それでも今思うと考えざるを得ないのです。
夢の中のインターホンで聞いた「鍵開けて」に従って、
実際に玄関を開けていたらどうなっていたのだろうか、と。

朗読: りっきぃの夜話

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