これは、私が高校に入学してまだ間もない、梅雨の時期に体験したお話です。
北陸にある私の高校は百年を越える歴史があり、古い校舎や寮など、敷地内では様々な怪談が囁かれていました。
野球部に所属しながら寮生活をしていた私は、そんな敷地でいつも練習に明け暮れていました。
その日も部活動で遅くなった私は、夕食を食べに、グラウンドから寮へと向かっていました。
時間は7時半ごろで、もう辺りは暗くなっており、学内に点々と設置された外灯だけが頼りの無い光を放っていました。
グラウンドから寮へ向かう途中には図書館があり、その時、私はなんとなく、明かりの消えた図書館を見上げました。
すると、図書館入り口の自動ドアの上の窓、二階に女の学生が立って、こちらを見ていました。
女の子は楽しそうでも、悲しそうでもなく、無表情でこちらを凝視しています。
明かりの消えた図書館に1人でいるなんて、不気味だなと思いましたが、その当時、まだ図書館に一度も入ったことの無かった私は、上級生になればそういう生徒もいるのだろうと、特に気にせずにその場を立ち去りました。
それからも何度か部活帰りにその女の子を見かけることがありました。
女の子はいつも決まって、入り口の上の窓から無表情で外を眺めていました。
それから月日が経ち、授業の関係で、私に初めて図書館を利用する機会が訪れました。
私は図書館の前で「そういえば、何度か夜に不気味な女の子を見たな」と、彼女のことを思い出しました。
そして、もしかしたらあの二階の位置からは、何か面白いものが見えるのかもしれない。
そんなことを考えながら、入り口の自動ドアをくぐった瞬間、私は戦慄しました。
その図書館は入り口を入ってすぐが吹き抜けになっており、入り口の上の窓の前には、人が立つスペースなど無かったのです。