某寺の武者

これは早世した母方の叔父の墓開きの事だった。
菩提寺になっているのは、明治芯に最後まで抵抗したある藩の藩主が熱心に信仰した寺で、古刹とも言っていいところだった。

住職を務められていた方も、極めて温厚で無欲な方で、熱心に修行と不況に取り組まれていた。
いつも話は面白く、まだ学生だった私も、聞きいってしまうほどの人格者だった。

ただひとつ、それだけの古刹だけに墓地もやたら広い。
しかも明治維新で抵抗した勢力だったため、なかなかきっちりとした墓を建てられず、無縁のように葬られている甚つも多いようだった。

さて供養当日、無事に住職による読経も終わり、
皆が交互に手を合わせて終了、というときだった。

一人の叔父がカメラを買い替えたばかりということで、
みんなで記念撮影をということになった。

存命だった祖母を中心に20数名が並んだのだが、何かおかしい。

並んでいる右側から何か強烈な圧力を感じるのだ。
しかも右側だけ妙に寒い。
その空気を感じたのか、いったんカメラを下ろしリセット。
再度並びなおしたときに、思わず私は全員年長者の中で叫んでいた。

「そこから右、絶対入るな」と。
「何にもいないじゃないか」
と文句を言うものもいたが、それどころじゃない。
もうひとり、私と同じく軽い霊感もちの従姉妹が「そっちだめ」と言い出して大騒動。

私には見えていたのだ、右足をざっくり切られちぎれかけている下級武士の姿が。

その表情は怒りと同時に悲しみを満面に表していた。
そこで孫場を仕切っていた叔父に事情を話すと、すぐに住職を呼んできた。

住職曰く
「ああ、この奥には名も知られず死んでいった侍たちの墓もあるし、そういう古い破邪にはたいてい誰も寄り付かん。あなた方が、というより仏がうらやましかったんでしょうな 」

朗読: ゲーデルの不完全ラジオ

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