私が小学生1、2年生の時の話です。
私が住んでいる家の2軒隣に老夫婦が住んでいる家がありました。
その家の玄関口でたまに、白いシャツに茶色いニット、こげ茶のスラックスという恰好の、知らない優しそうな印象のおじさんがすっと立っている姿を見るようになりました。
家の前の道路で縄跳びで遊んでいた私に、おじさんが手招きしながら2軒隣の玄関入口に置いてある小さな植木鉢を指さして 「この草に触ってごらん」 と言いました。
その鉢植えには背丈が15センチほどの小さい枝に沢山の小さな葉をつけた植物が植えてありました。
私がその草に人差し指でちょこんと突っついてみると、小さい葉が順番にうなだれる様に下へ向いてしまいました。
「わぁ、この葉っぱ動いた!」
「オジギソウって言うんだよ」
「おじさんも触ってみて!」
「僕が触っても動かないんだよ」
「えー!どうして?不思議!」
不思議な草を教えてくれたおじさんに興味をもった私は 「ここのお家のおじいちゃんおばあちゃんのお友達?」と聞きました。
「そうだよ」
「どこからきたの?」
「川の向こうだよ」
「ふうん、一丁目に住んでるの?」
『川の向こう』というのは、近くに小さい川があり、こちら側は二丁目、向こう側は一丁目だったので、子供の私は川の向こう、つまり一丁目から来たんだなと思いました。
するとおじさんは 「ちがうよ」 と言います。
「どこの川向こう?」
オジギソウをつつく手を止めて、おじさんの方を見上げると、おじさんは居なくなっていました。
数日経って、そこの老夫婦のおじいちゃんが亡くなりました。
それ以降あのオジギソウのおじさんは見ませんでした。
大人になって思うと、おじいちゃんが具合悪くてお見舞いに来ていたお友達だったのかなと思う反面『川の向こう』から来たのは、もう既に亡くなったお友達がおじいちゃんをお迎えにきたのかもしれないと。
今でもたまにあのおじさんは何処から来たのか、生きてた人間なのか、オジギソウを見る度に思い出します。