旅行奇譚

1年前の夏に起きた不思議な体験をお話します。

旅行会社のツアーで、私達家族は鎌倉に行きました。
私は姉と一緒に座って、楽しそうに会話を弾んでいました。
事無くして、姉は「鎌倉に着いたら起こして」といい、
目的地に着くまで仮眠をとっていました。

そして、観光バスは鎌倉の手前にある峠に差し掛かったいた時のことです。
私は姉を起こそうと、声を掛けようとしました。
すると、横で寝ていた姉の様子がおかしいのです。

「うぅ・・・うぅ・・・うぅ・・・」
姉は顔を歪め、苦しそうに呻いていたのです。

「姉ちゃん、バス酔いしないはずなのに・・・」
と思っていた矢先、バスはトンネルの中に入りました。

「そろそろ起こさないと・・・」
私は、横に座っている姉を起こそうと、再度姉の姿を見て驚きました。
さっきまで、ぬいぐるみを持っていたはずなのに、
ぬいぐるみは隅に追いやられていました。
姉の手が、赤ちゃんを抱く手の形に変わっていたのです。

「うわっ!」

私は思わず叫び、背筋が凍りつきました。
ふと、窓ガラスの方に目をやると、ゾッとしました。
姉の手の中には、布で包まれた赤ちゃんの姿が映っていたのです。

「これはやばいぞ!」 と思い、私は姉を起こそうと肩を叩きました。

「姉ちゃん、いい加減に起きて!」
私は姉の肩を揺すって起こそうとすると、
ふっと、姉の顔つきが険しくなり、私を睨みつけてきました。
さらに、口調まで別人みたいになっていました。

「うぅ・・・うぅ・・・、私の子を・・・奪うな・・・」

姉の人格はまるで、子を守る母親でした。
ツアーのバスが目的地に着きました。
バスが目的地に着いた途端、姉はハッと正気を取り戻していました。

私は姉にバスの中で何があったのか聞いてみました。
「姉ちゃん、さっき別人みたいになってたけど、どうしたの?」
「えっ、何が?」
「何がって、さっきの事、覚えてないの?」
「んー、うっすらとだけど、覚えてるよ」
姉は私に詳しく教えてくれました。

「なんかね、悲しい気持ちになったんだよ。 誰かが子供を奪おうとして、『やめて!』とか、『殺さないで!』とか、 子供を守ろうとした女の人の感情が入ってきたんだよねー。 もしかしたら、母親の念が私に憑依して、 自分の悲しい気持ちを誰かに伝えたかったんじゃないのかな・・・」
と、姉が言いました。

それからしばらくして、市街地を散策して、家族旅行を楽しみました。
そして、鶴岡八幡宮を参拝した時です。
ふと、私の耳元付近で、 「Y美」 と、私を呼ぶ声が聞こえてきたのです。

「お母さんたちかな?」と思い、 振り返りましたが、
そこには母達の姿はなく、誰もいません。
気のせいかと思い、再度写真を撮り直しましたが、
また、私を呼ぶ声が聞こえました。

「Y美」
・・・やっぱり、誰もいません。
私はふと不思議に思いました。

「ちょっと待てよ・・・? 母の声にしては、妙に若い声だな・・・。 てか、なんで私の名前を知っているんだ!?」
ゾッとしました。
私は家族の元に駆け寄り、さっきの事を家族に話しましたが、誰も信じてくれませんでした。

「お母さん、さっき、私の事、呼んだ?」
すると母は 「呼んでないわよ」と返しました。

「2回、呼んだでしょ?」と私が聞き返すと、
「だから、呼んでないって!」と言いました。

あの声は、一体誰だったのか、
私が聞いた声の主は、姉に取り憑いた母親と同一人物だったのでしょうか・・・?

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