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【黒くて伸びる人】

嵐の夜である。
深夜残業を切り上げ、マンション2階の事務所を出る。
通路に出ると外は真っ暗で風がゴーゴーと吹いている。
階段を降りる前に、踊り場から外の様子を眺めてみた。
雨はまだ降っていないが、とにかく風が強くて木々がうねっている。
街並みが暗い。みんな雨戸を締め切っているせいだろうか。
ポツンポツンと街灯のまわりだけがわずかに明るい。

ふと、遠くの街灯に目が留まった。
人がいる。
黒い合羽を着ているような、背の高い人だ。
どれくらいの距離だろう、100メートルか200メートルか、
米粒のように小さいが街灯に照らされて、そこに人がいるのが見える。
その人は右手にある公園へ入って行こうとしていた。
そこの公園は少し変わっていて、実は「横穴墓群」という古代人のお墓、
つまり古墳の上に作られた公園で、ちょっとした小高い丘のようになっている。
公園の中には水路も流れており、
また大きな松の木もあるような比較的うっそうとした公園だ。
ついでに言うと、貞子が出てくるような古井戸の名残もある。
折からの風で、公園の木々も激しく揺れているのがここからでも見える。
見えると言っても本当に真っ暗で、暗い空をバックに暗い木々のシルエットが不気味に揺れているのである。 公園内はほぼ真っ暗で、とても人が入って行けるようには思えない。
オレだったら絶対に入りたくないと思うほど不気味な雰囲気になっている。
そこに入っていくあの黒い人はいったい何者なのだろう?

そういえば変だ。おかしい。
この暗いのにあの人はなぜこんなにハッキリ見えるのだろう。
暗い公園の森の中に黒い合羽を着た人が入っていく様子がまだ見える。
いや、あの人のシルエットが、なんだか薄ぼんやり光っていないか?
街灯の光がまだ届いているのだろうか。
そうは思えないのだが・・・。
疑問に思ってさらによく見てみると、なんだかさっきより背が高いような気もする。
高いというか、公園の階段を上り、林の中に入っていくほど、
どんどん背が伸びているような・・・ なんだあれは?
大きく目を見開いて、さらに見てやろうと踊り場から身を乗り出したとき、
その黒い人がくるっと正面をこちらに向けた!
びっくりして体が動かない。でもこの距離である。
向こうからこっちが見えている可能性は それほど高くないはずだ。
ところがである。
その黒い人は、あろうことかオレに向かって
ゆっくりと「おいでおいで」をしたのである。
「ヤバイ!」そう脳裏で叫ぶ。
声なんか出ない。
何かわからないけど、とっさのことに恐怖感でいっぱいになり、
唖然としたままとにかく逃げようと「ダダダダッ」と、
階段を脱兎のごとく走り降りる。
すぐに1階に出て、わき目も降らず自分のバイクへ向かう。
メットをかぶり、バイクにまたがりエンジンキーを挿して回す。
すると、バックミラーに信じられないものが映った。
あんなに遠くにいたあの黒い人が、
今まさに交差点から自分のいる道路まで走って来ているのである。

そんな馬鹿な、人間の走るスピードじゃない。
オレはもう、アクセル全開で猛スピードでその場を離れた。
バックミラーには追うのをあきらめたかのように
ヒタヒタと歩くそいつが映っていた。
合羽と思っていたそいつの姿は、昔の人が着ていたという
「ミノ」のようなもので、 頭から足先まで真っ黒い長い毛のようなもので覆われた姿だった。

クルマがたくさん走る大通りにでて、やっと少し落ち着いてアクセルを戻す。
「なんだったんだ、アレ・・・あぁ、いやだいやだ、
もう嵐の晩に深夜残業だけは絶対やめよう」
そう誓うのが精いっぱいでした・・・。

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