辿り着かない橋

何処にでも、大なり小なり心霊スポットというものがある。
誰が自殺しただの殺人があっただの、その内容は様々だ。
共通する点といえば、その場所で不可解な事が起こったり
或いは霊が目撃されたりする事だろう。
ただ今回の話は、心霊スポットではあるが
誰もそこで不可解な現象も体験していないし霊も見ていない。
そんな矛盾する話だ。

社会人になって1年目の事 見知らぬ土地、
見知らぬ人になかなか慣れない私を見兼ねて、
勤め先の上司が地域貢献からスキンシップをとってはどうだと、
ボランティア活動をしている地域団体を勧めてくれた。
正直、面倒だなと思ったが、私を心配してくれている手前、
無碍には出来ず取り敢えず参加してみた。
毎週日曜日の午前中に地域の清掃や草払い等をするだけ、
参加も不参加も自由 という、割とゆるい活動内容に加えて、
思った以上に周りから覚えられるし
実際参加してみると楽しかったと言うこともあって、
私はほぼ毎週のように参加する事になった。

ボランティア活動に参加するようになって、3ヶ月ほど経ったある日、
◯◯滝という観光スポットの駐車場の清掃に割り振られた私は、
エニさんと皆んなから呼ばれている、
還暦過ぎのオジさんと車で◯◯滝まで向かっていた。
その中でエニさんは私に
お前、◯◯滝は初めてだったよな?綺麗やぞ。綺麗やけど怖いぞ。恐ろしいぞ。
と脅してきた。
そんな危険な場所なのか…と少し身構えながら車を走らせていると、
見事に整地され舗装された駐車場に着いた。
怖いとは何だったのかと頭を捻りながら清掃作業に勤しんでいると、
エニさんがこっちに来てみろと私を呼ぶ。
呼ばれた先にあったのは頂上から絶え間なく雄大に落ちる水、
青々と茂った木々、その中に場違いのように架かる鉄橋だった。
エニさんは鉄橋の上に私を呼び、渡ってみ?と言う。
私は滝に目を奪われながらも言われた通りに鉄橋を渡り切った。
渡りきった先には、トイレが1つと誰が管理しているのか、
小さいながらも綺麗に保たれた神社があった。
ここ、このトイレなあ、昔ここで自殺した女の人がおってな、
オバケ出るらしいで。誰も見た事ないらしいけど
エニさんが後ろから話し掛ける。
何故誰も見た事がないのに心霊スポットなのか、
私はさっぱり分からなくて聞いてみると 夜に来てみ?何も言わんと来て、
橋を渡ってみ。 とだけエニさんは言った。

私はどうしても気になった。
誰も霊を見た事がない心霊スポットなど有り得るのか?
早速その夜私はエニさんとわかれたその足で◯◯滝へと向かった。
夜の滝というものは昼とは違い存外怖いもので、
暗闇の中ただ水の叩きつける音だけが響く。
懐中電灯で足元を照らし、夜の鉄橋を私は少しずつ歩いていた。
私は1つ気になっている事があった。
エニさんはこの橋を渡れば分かると言っていたが、スポットはトイレではないのか。
トイレを見れば分かるではなく、何故橋を渡ればなのか
エニさんが何を言いたかったのか分からないまま、橋を渡る。
あと少しで向こう側に着く。
あと少し、あと1歩… 渡りきった。
何処だ?ここは?
昼間にみたトイレも、神社も、ない。
ただ平坦な歩道が続く。 後ろを見ると橋すら無い。
半ばパニックになり前にも後ろにも進めずにいると、
通りかかったトラックの運転手に声を掛けられた。
この先、もう少し歩いたら駐車場だから。
橋、渡ったんやろ?
トラックの運転手に言われた通り、少し歩くと午前中に清掃をした◯◯滝の駐車場に着いた。
私の車も、ある。
急いで車に乗り込み駐車場を出て、エニさんに電話をした。
数回コールして、眠そうなエニさんが出る。
状況を説明すると、エニさんはヒッヒッと引き笑いをして、
辿り着かんのよ。心霊スポットと騒がれて馬鹿者が何人も肝試しとか言うのに向かったが、
向こう側には辿り着かんのよ
何でかは分からん。けど昔からそうよ。
自殺があってから先、夜にあのトイレに行った話は聞かんのよ。
代わりに変な橋があるって騒がれよるけど 何でかねえ… と言った。

世の中に心霊スポットは数あれど、
誰も辿り着けない心霊スポットは珍しいんじゃないかなあと思って投稿しました。
何かが、好奇心で悪いものに近寄らないように護ってくれているのかな?
と個人的には考えています。
ただ、これ夜まで向こう側で待ってれば…と思いましたが、
怖くて実行していません…

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