友人Aの懺悔

友人Aからの話です。
あまりにも重い懺悔で、抱えきれないので投稿させてください。
今まで誰にも話したことない話です。

まずこのAについてですが、彼は霊感が全くないです。
UFOとかの方がまだ信じられる、とのことですが幽霊は本当に信じていません。
無念の思いを抱えて死んだ人間が幽霊になるとしたらこの世は幽霊まみれだ、というのが彼の言い分です。
人類の歴史舐めんな、となぜか怒られました。
そんな彼が以前、大学の友人と肝試しに行くことになったそうです。
男友達のB,Cが行ってみたい廃病院があるとのことで、
全く怖がりじゃないAと一緒なら心強いというのが誘われた理由とのことでした。
以下Aの口述です。

ーーー 肝試しは廃病院の地下の一番奥にあるとされる霊安室をなんとなくのゴールにして決行した。
6月の土曜日の夜だった。
俺が丸腰で参加したのに対して他の二人はかなり怖がりで、バットやらヘルメットやら装備を充実させてきたのでウケた。
そして俺が先頭で懐中電灯を持って歩くことになった。
正面玄関から土足で入り、地下への階段にたどり着くまでの道のりは簡単だった。
部屋の中や廊下の端はロッカーが倒れていたり、破れたカーテンや書類のようなものが床に散乱していたものの、
道を塞ぐような障害物にも出会わず、玄関から直線で50メートルほど廊下を歩いた地点に階段があった。
階段は途中で踊り場のような折り返しがあるタイプで、
折り返し地点には椅子やテーブルが散乱しており地下へ降りるのは少し面倒だった。

地下はとにかく暗かった。
階段を降りた後は左右どちらに向かうか一瞬迷ったんだけど、目的は一番奥の霊安室なので、
玄関と反対方向に歩けば間違いないと思い進行方向を決めた。
ここから一番奥の部屋までは少し大変だった。
まず一階と違って人が歩いた形跡があまり無く、
ロッカーやストレッチャーが廊下を塞ぐようにして乱雑に置かれていて、
肝試しでもさすがに地下まで降りる人は少ないのかな、と思った。
そして道のり以上に厄介だったのが一緒に来た友人B,Cの2人。
もうとにかくビビりまくっていて、地下に降りる階段の様子を見ただけで「どどどうする?ゴクリ」とか言ってた。
この時点で2人の肝はもう十分冷やされたように見えたため、
最初からさほどやる気のない俺は撤収を提案した。
そしたらあのカス共「でででもせっかくここまで来たし、ねぇ?」
「もも目的はあくまで、地下霊安室ですぞ」とかほざいてんのw
ーーーたぶん友人たちはそんなオタのような喋り方はしてないと推測しましたが、
Aの再現が面白かったのでこの部分だけAのセリフの通り書きました。

ーーー 飽き始めてた俺はさっさと肝試しを済ませようと思って、地下に二人をいざなった。
Bから受け取ったバットで道を探りつつ障害物を掻き分けながらなんとか廊下の突き当たりにたどり着いた。
突き当たりの部屋はドアが小さく、霊安室ではなかった。
ドアを開けてみるとただの掃除用具を入れる小部屋だった。
ドアを開けてすぐ正面にモップを洗えるような形の洗面台。
右手に多少奥行きがありほうきなどが立てかけられていた。
特筆すべきことは特にない部屋で、やることがなくなったんだけど、
目の前の洗面台の蛇口に水が通っているのかどうかがなんとなく気になり、おもむろに蛇口をひねった。
水は出なかった。
その時、ふと足先に何かがぶつかり、洗面台の下を覗いてみた。
何だこれは。
大きくて丸い鉄の板が洗面台の下に置かれてて、懐中電灯でよく見ると「◯△市」と書かれていた。
「これマンホールの蓋じゃない?」友人Bが言った。
なんでこんなところにマンホールの蓋があるのか3人ともわからなかった。
俺は蓋をズラしてみた。
そしたら床にはポッカリ穴が空いていた。
大人が1人通れるくらいの大きさの穴。
あまりの不気味さに友達2人は恐れおののいていた。
俺は中を覗いてやろうと思って懐中電灯を口に咥えて洗面台の下に潜り込んだがすぐに断念した。
穴から物凄い悪臭が立ち込めてきたからだ。
なんと言うか、腐った雑巾にチーズを塗り込んで煮込んだような。
思い出すだけで吐き気がする匂い。
俺は幽霊的なものは大丈夫だが臭い、汚いは得意じゃないので、
洗面台下から出てきた勢いそのままに玄関に向けて歩き出した。
友人2人は振り向いた俺の苦悶の表情を見てすぐに踵を返し今度は俺の前を我先にと玄関に向かって歩き出したんだ。
こいつら何しに来たんだ、と思った。

一階に上がる階段に向かって歩き出したころ。
後ろから突然ガタッと音が聞こえた。
友人2人が揃ってギャーーッ!と恐怖の声をあげ、俺も思わずウオッと声が出た。
そして友人2人は悲鳴をあげながら一目散に階段を駆け上がっていった。
多少の恐怖を感じながらも行きの道すがら廊下の端によけていった障害物が崩れたのかな、などと思い後ろを確かめた。
そこには小さい人のような形をしたものがいた。
懐中電灯で照らしたら肌は茶色く黒ずんでて、干物みたいな乾いた身体をしている。
頭は毛がモジャモジャで、服は着てなくて、ガッリガリ。
昔なんかの雑誌で読んだカッパのミイラみたいな感じだった。
それが強烈な臭いを出しながらこっちに手を伸ばして歩いてくるんだよ。
あまりの恐怖に俺は絶叫した。
そいつはなんか「あ」に濁点を付けた「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」みたいな声をあげてるんだよ。マジで怖かった。
さすがにこの世のものとは思えなかった。
俺は上り階段に向けて一目散に走った。
背後の暗闇からはガサガサと俺を追ってくる音がする。
なんとなく捕まったら生きては帰れない気がしたから、手に持っていたバットを後ろ目掛けて力一杯ぶん投げた。
ボコッガンッガコッみたいなバットが色々な場所にぶつかる音だけが聞こえ、
俺の手にはもう武器も無くなり、かなり心細くなった。

そこからはとにかく必死に逃げた。
階段を登り、玄関を飛び出したところ、友達2人が顔面蒼白になりながら俺を待っててくれた。
何かが建物の外まで追ってくる気配は、無かった。
その日人生一の恐怖に支配された俺たちは半べそをかきながらCの家に三人で身を寄せ合って寝た。

廃病院での恐怖体験から数日経ったある日、
ふとニュースに目をやると「◯△市幼女監禁殺害事件」というセンセーショナルな見出しが踊っていた。
なにやら閉ざされた廃病院の地下室に五年前から行方不明の少女が、
頭部が陥没した状態で遺体で発見された、というニュース。
凶器と見られるバットが廃病院の地下廊下に転がっていたとアナウンサーが言ってた。
ニュースによると少女を監禁していたと見られる男の腐乱死体がマンホールの蓋で塞がれた地下の穴から見つかったらしい。
死後三ヶ月とか言っていた。
ニュースではここまでは言ってなかったけど、現場を知っている俺には、少女が男とともに五年間も地下室で生き、
なんらかの事情で死んでしまった男の死体を食べながら三ヶ月もの間生きながらえていたのだと、推測ができた。

ーーーAは話しながら震えて泣いていました。
ーーー だってさ、監禁されていた女の子が、ようやく外に出られるチャンスを得て、必死に助けを求めて追いすがって来てたんじゃん。
・・俺に。 俺が・・俺が投げたバットでその少女を殺し、、
あ゛ーあ゛ーあ゛ーあ゛ーあ゛ーあ゛ーあ゛ーあ゛ー!!!!!!!!!
ーーーAは発狂してしまいました。

この日はそれっきりで、落ち着かせてから家に返しました。
今もAは逮捕されていません。現在の捜査状況もわかりません。
内容がセンセーショナルすぎるせいか、メディアでこの話を見かけることもほとんどありません。

以上がAから聞いた話の全てです。
Aに自首を進める気はありません。
この話は僕の創作だからです。
ご覧頂きありがとうございました。今後の皆様のご健勝をお祈りいたします。

朗読: 【怪談朗読】みちくさ-michikusa-

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