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同胞は要らない。

数年前の初夏の事だったと思う。

その日も1日の労働を終え、帰路に着いていた。
駅を出て徒歩9分程の道のりの半ば、D公園がある。
そこはお気に入りの休憩スポット。ほぼ毎日のように通っている。そして今日も。

この日は、もう夜中だと言うのにセミの鳴き声が鳴り響いていた。
ミンミンミンミンと騒がしい。
「ああもう鬱陶しいなぁ…せめて今日くらいは静かにしてくれ」
そう呟きながらもいつものルーティーンをこなす。
公園に入って右手直ぐの自販機、下から2段目の右端、最短距離で買う。そして外灯下のベンチで寛ぐ。
誰も居ない静かな時間帯。周りの木々が風で揺れるシルエットを、葉が擦れる音を…楽しみながら寛ぐのだ。
それが私のルーティーン。
仕事を始めてから2週間程経った頃に始めたそれは今では立派な習慣。
何が良いのかとよく聞かれるけれど、
毎日、仕事は目が回る様に忙しいし、残業もあって自由な時間がないのだ。
良いではないか。自分の時間をどう過ごそうが自由だろう?
さぁ、今日から自由を楽しもう。
って、あれ?…ボタンが反応しない。
どうやらいつもの箇所が売り切れている様だ。
仕方ない1つ隣のを…むぅ、ダメだ。ボタンの反応がない。
そこで気が付いた。自販機に電源が入ってない。
「は?こんな事ってあるのか…普通」
萎えてしまった。木々も慰めてくれているのだろうか。
心なしか葉の擦れる音が消えていた気がする。
今日やっぱり帰ろうか。また今度でも出来るし。
そう思い手に持ったソレをポッケに戻し、自販機に背を向ける。

立ち去ろうとするやいなや『ブ…ブブーン…チカッ』先程まで稼働していなかった自販機のライトが突如点灯した。
私の足元から影が伸びている。
何かがおかしいと感じるのに1秒も掛からなかった。
普通、光を浴びた物体の影は引き伸ばされた様に先端に向かう程に細くなる。
だが、私の影は膝を境に太くなっていた。
すこしなら気付かないだろうが、明らかに2倍近く太くなっていたのだ。
さらに影は明らかに伸びていた。1.5倍くらいだろうか。
色々考えてみたが理解出来ない。
何故太くなっている?背後を見れば分かるだろうか?そう感じた私は振り向いた。
あぁよかった。先客かと思った。
どうやら自販機の前に枝が有り、それが影になっていた様だ。
自販機の後ろの木の枝が手入れもなされずに伸ばされ放題であった為だろう。
さっきは気づかなかったが自販機の前にひときわ太い枝がその重さからか、垂れていた。

今はもう例のルーティーンをしていない。その日以来、一切していない。
どうして止めたのか。私自身も覚えていない。
…だが、気付いた時には自宅のベッドで目が覚めのを覚えている。
ベッドは土埃でかなり汚れていた。
ポッケに入れていたアレは…無くなっていた。
その日見た朝日はやけに眩しかった。

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